【まだ半信半疑】決められない私(2/5)

出版を記念して、前回から始まった特別企画。『あなたがあなたのままで輝くための ほんの少しの心がけ』が出来るまでの、ちょこっと裏話。第2回目の今回は「決められない私」です。
わざわざ京都の大行寺まで来てくださったのに、「信じられない私」によって、疑惑の男扱いを受けた出版社の方。彼の名誉のために言っておきますが、彼に落ち度は全くなかったんです。オシャレだし、紳士的な対応だし、今となっては、この方のお蔭で本を出すことが出来たので、お歳暮は送った方がいいかな?とか思うほど。
でも、これも前回のコラムの言葉を借りれば、「自分の都合を信じている」だけなんですね。私にとって都合のよい人となった今は、お歳暮まで送ろうか?なんて考えている。なんなら、お中元も送ろうか?と、来年のことまで考えている。

そんな彼も、最初に契約書を取り交わさなかったということだけで、私にとって都合の悪い人だったときは、疑惑の対象であり、私を騙す悪い人扱い。彼という人間は、何も変わらないんですね。変わったのは、私の見方。

アメリカの基準である、「仕事の前に契約書を交わす」を、判断基準のモノサシとして日本に持ち込んだ私によって、結局、私自身が真実を見られなくなっていたんです。それは、相手に対して失礼なだけでなく、私自身のことですが、とても悲しいことだな、って思います。
ちなみに、このモノサシ問題。本文でも触れているので、その部分を引用しますね。


 

私たちは、自分に都合がいいモノサシを持って生まれてきます。
それぞれが違う単位、違う長さのモノサシで、同じものは一つとしてありません。なのに、自分のモノサシが正しいと思い込んで使うので、さまざまな問題が起きてしまいます。

 


自分で書いた文章ですが、正に仰るとおり。

さまざまな問題どころか、相手を信じられなかった私は、せっかくの出版のお話も信じられず、原稿を書こうともしなかったんですから。

これは後々、エライことになるのですが、それはまた別の機会に…。
ところで、半信半疑ならぬ、「私を騙してどうするつもりだ?」という思いを抱えたままの打ち合わせで、心に残った一言がありました。

それは、原稿の締め切りを決めるときのことです。「自分で決めてください」と、言われたんです。思わず、「え?」と聞き返すと、「自分のことですから、自分で決めてください」と。
このとき私に湧きあがった感情は、湧き上った順に以下の3つ。

1)凛々しくて素敵!

2)さすが!日経BP社さん。ビジネス書に書いてあるっぽい理想の仕事の進め方だー

3)やっぱり騙しているんだ。肝心のことを、うやむやにしてー
ちなみに、感情に占める割合は

1<2<3

だったことを付け加えておきます。
占める割合が多くとも、3は私の誤った見方だったので割愛すると、純粋に私の感情だとカウントできるのは、1と2になります。そして、それに共通するのは「かっこいい!」ということ。

確かに、自分で決めて、それに向かって行動するのは、かっこいい、素敵だな、と感じます。そして、それを必ずやり遂げる。有言実行。
でも…。

現実は、どうでしょうか?

本文から引用してみましょう。


 

仕事で、そしてプライベートで、必ず、絶対というような言葉を使って、約束をすることがあります。けれども残念ながら、日時を決めて会うというような約束でさえも、守れない場合があります。(中略)必ず会いにいくという自分の意思だけでは、どうしようもないことが起こるんですよね。

 


そうなんです。

残念ながら私たちに「必ず」は、成立しないんです。
本にも書いたこの言葉。

本の原稿を書きながら、何度も私の頭にも去来しました。

正確には、喉元まで何度も出かけました。
「ね、必ずは成立しないんですよ」

「締切が必ず守れるとは限らないんですよ」
「必ず」という大事な言葉までも、自分の都合で言い訳に変えてしまう。自分の都合に合うものを選び、都合に合わないものを排除するだけでなく、都合のいいものに変えてしまう。自分勝手さを超えて、怖いなぁ、って思いました。自分自身のことですけど。
さて、今回はここまで!

次回、またこの連載でみなさんとお会いできることを、楽しみにしています。
おっと、その前に…。

「自分のことですから、自分で決めてください」と言われた私。締切日を自分で決めるなんて、即答できず、「え〜っと」と、考えるふりをしていました。考えたって、「騙されている」と思い込んでいる私に、答えがでるハズもなく。とりあえず、場当たり的に「7月末で」と言ってみました。
7月末。適当に言った締切日が、現実になるとはそのときは思いもせず。とりあえず、その場を丸く収めたと思ったのは1月末のこと。締切日まで6ヶ月。そのとき、私の知らないところで、カウントダウンが始まったのです。

真宗佛光寺派大行寺住職。 銀行員生活を経て2001年に渡米。ラジオパーソナリティを務める他、TVCM、ラジオCMなどに出演。また「サンフランシスコ写経の会」を主催する。 2010年、実家の寺の跡継ぎとなるため帰国。大行寺で始めた「写経の会」「法話会」には、全国から多くの参拝者が集まる。 講演会や寺院向け講習会の講師を務めるほか、テレビで芸能人の悩みに答えるなど、その活動は多岐にわたる。 『毎日新聞』で「英月の極楽シネマ」連載中。 著書『あなたがあなたのままで輝くための ほんの少しの心がけ』(日経BP社) 共著『小さな心から抜け出す お坊さんの1日1分説法』(永岡書店)