食べてみた vol.3 (番外編):「落雁のある喫茶店」

食べてみた vol.3 (番外編):「落雁のある喫茶店」

西新橋の喫茶店、草枕珈琲店には「和三盆のお菓子」というメニューがあり、注文するとお皿に美しく盛られた落雁が出てきます。お店の落ち着いた雰囲気は落雁ともよくマッチしているのですが、コーヒーがおいしいお店に落雁があるのはなんだか不思議で、どうしてだろうと気になっていました。そこで、マスターの相吉さんにお話をお伺いしてみました。


「和三盆のお菓子」について

――草枕では昔から「和三盆のお菓子」が定番ですが、どうしてこのメニューを出しているんですか?

「盛りつけたときのバランスがいいんです。お皿に載ってよく映える、と言いますか...」

――なるほど、ちょうどいい感じがします。では、どうしてこの(右の)落雁を選ばれたのでしょう?

「昔からこういう(和三盆の)味が好きなんです。昔、大学受験のときにこれ(右の丸い紅白のお菓子)に似たお土産を買って帰って、おいしかったんです。それを聞いた父親がお土産にこのお菓子を買ってきてくれまして」


――思い出深いですね。お味が昔からお好きなんですか。

「口溶けもよろしいですしね。私は甘いものの中では和三盆が一番好きでして。このお菓子は和三盆そのものに近いかなと」

――おお!確かに。


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――左の落雁は少し固めで、またちょっと感じが違うようですが。

「和三盆だけでなく、中には色々なものが入っている感じです。いつでも手に入れやすいのもいいところです」

――いつもの店にいつもの定番があるって、大事ですよね。

(頷く)

――落雁のいいところって、どんなところですか?

「落雁はあまり好き嫌いがなくて、比較的どなたにでもお召し上がりいただけるんです。それに油分が少なくて飲み物の邪魔をしない、と言いますか」


――どんな飲み物にでも合わせられる。

「はい、コーヒーでも紅茶でも皆さん喜ばれます」


――このコーヒーともすごくしっくりきます。もうほとんど飲んじゃいましたけど...



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――それでは、落雁をいただきます。今日はありがとうございました。

「ありがとうございました。ごゆっくりお召し上がりになって下さい」


「草枕」でコーヒーを頼むと、マスターがネルドリップでじっくりと淹れてくれます。落ち着いた時間を過ごすことができますよ。

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金沢のお菓子とお寺の思い出


ところで、後編に出てくる落雁は全て金沢のものです。金沢は落雁とゆかりの深い土地ですが、これらの落雁をとりあげた理由はそれだけではありません。私は以前、縁あって金沢の古いお寺で住み込みをしていました。「寺男」と言うのでしょうか。雪かきをしたりお掃除をしたり、お寺を守っているおばあさんの昔話を聞いたりすることがその時の主なつとめでした。



記録的な豪雪の年でした。雪の間はお寺の庫裏でお茶を飲みながらおばあさんの昔話を長いこと聴きました。たまに晴れた日はお寺の赤い自転車で外に出かけて市内のあちこちを回りました。
金沢は「北陸の小京都」と言われる文化的な街で、喫茶店はあちこちにあるし茶道に親しむ人も多くいらっしゃいます。「東京のお寺でカフェをしている」というと会う人みんながおすすめのお菓子を教えてくれます。いつからか晩ご飯の材料と一緒に銘菓を一つ二つ買って帰るのが習慣になりました。



「花うさぎ」は近くの銭湯から雪を踏んでお寺に帰る道すがら包み紙を開いてつまんでいました。「愛香菓」を夜行バスに乗せて東京に持ち帰ったら角がずいぶん欠けてしまったことを思い出します。「長生殿」の森八の店構えはいつ見ても美しく、のれんを外から見る度に背筋が伸びました。


ケンユウさんが加賀のお寺から遊びに来てくれたり、近くを訪ねたまつけいさんがお土産を持って来てくれたり。寒くて楽しい冬でした。そのときの色々な経験が今の自分を形作っているのではないか。最近はそんなことを思うようになっています。

2006年の冬、僧侶を志すずっと前の懐かしい思い出です。


木原健 (きはら たけし)
>>プロフィールを読む 1978年神奈川県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶。 東京・神谷町光明寺所属。法政大学社会学部社会学科卒業。お寺カフェ「神谷町オープンテラス」に設立時より参加。主に来訪者の接遇を担当。現場の長として「店長」の愛称で親しまれている。