やりたいこと後回しはアカン! 一般社団法人メッター代表・今城良瑞さんに聞く、ファミリーホーム設立への挑戦

やりたいこと後回しはアカン! 一般社団法人メッター代表・今城良瑞さんに聞く、ファミリーホーム設立への挑戦

今城良瑞さんはみんなの頼れるアニキ的なお坊さん。見た目はちょっとコワモテですが、傷ついた人の心に触れるやわらかな手のひらを持っている人です。初対面で「坊主めくり」インタビューをしたときに、すごく緊張していたことを今では懐かしく思い出します。

今城さんは2006年頃から、主にオンラインで虐待やレイプ、DVやいじめで心に大きな傷を負い、トラウマを抱えた人たちの相談に応えてきました。幼い頃から虐待を受けてきた人たちに向き合うなかで、今城さんは早期の親子分離の必要性を感じるようになりました。 

今城 早めに家を出ていれば、この子たちの人生は違っていただろうな。早めに親子分離した方がいいんちゃうかなと思っていたから、今まさに虐待を受けている子たちを受け入れるファミリーホームを作りたいなあと思って。 

目指すは、来春のファミリーホーム開所。もっか、今城さんたちは寄付集めや協力者の募集に奔走しています。今回は、ファミリーホーム設立という大きな挑戦に至るまでのこと、その背後にある仏教者としての思いを聞かせていただきました。



津波の姿に感じた無常をきっかけに。

メッターロゴ
 メッターの名前は「metta=慈悲」からつけられたもの。


ファミリーホーム設立の母体である「一般社団法人メッター(以下、メッター)」は、2011年9月に創立しました。きっかけになったのは、同年3月11日に発生した東日本大震災です。

今城 津波の姿をテレビで見て、非常に無常を感じたということと、同時に「震災孤児がたくさん出るだろうな」ということも頭のなかにあって。やっぱりやりたいことの後回しはあかんやろうな。やりたいと思ったらやらなあかんねんやろうなと思ったときに「作りたいんやったら作ろう、ファミリーホームを作ろう!」と思ってん。

しかし、ファミリーホーム設立にはお金も必要なら、人手も必要です。今城さんは、専修学院で同期だった中村孝雄さん、超宗派の交流のなかで意気投合した藤岡延樹さんなどに声をかけて相談を持ちかけます。その後さらに、名古屋での自死者追悼法要で出会った泰圓澄一法さん、将来的にお寺にファミリーホームを併設することを検討している北村雄平さんらとも連携し、メッターを旗揚げしました



ファミリーホーム設立に向けて


ファミリーホームとは、里親や児童養護施設職員を経験したひとが養育者となり、家庭環境を失った子どもを受け入れる「家庭養護」です。養育者の家庭で預かる子どもは5〜6人まで。2008年の児童福祉法改正により、里親制度とならぶ家庭養護の制度として法定化しました。

メッターがファミリーホームを設立する場所は、泉南市にある今城さんのご実家。連携施設には大阪の児童養護施設 岸和田学園の協力を得ることができました。次の課題となったのは養育者探しです。

ファミリーホームの事業者には、個人でも法人でもなれますが、養育者の資格には「2年以上同時に2人以上の委託児童の養育経験」「養育里親として5年以上登録し、通算5人以上の委託児童の養育経験」「乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設または児童自立支援施設において児童の養育に3年以上従事した」のいずれかが求められます。

メッターの求人に対して、「養育者になりたい」と名乗りをあげてくれたのは20代の女性。しかし、彼女は児童養護施設での勤務が今で3年め。女性の養育者資格が整う2017年4月を待って、ファミリーホームを開所することに決めました。

 
familyhome_muroji.jpgメッターのつくる第一号ファミリーホーム「むろじ」から見える夕日。「むろじ」の名は一休宗純の「有漏路(うろじ)より 無漏路(むろじ)へ帰る一休み雨ふらば降れ 風ふかば吹け」より。


場所も人も見つかり、あとは開所を待つばかり。ここにきて、最後の大きな課題は資金集めです。

初年度に想定している予算は約1000万円。これまで、寄付などで集められたのは約400万円ですが、福祉専門の融資などの手段を使うこともできます。しかし、ファミリーホームの運営が安定することは、子どもたちの安心のために最重要な前提でもあります。できれば、1000万円を用意してから開所したい。今城さんたちは、寄付集めを継続し、托鉢に出ることも検討しはじめました。

そんなとき、連携施設である岸和田学園から紹介されたのが、不要になった服飾品をリサイクルし、収益を寄付に代えるしくみ「GET HAPPY」でした。



らくいち1万点キャンペーンへのチャレンジ

らくいち1万点キャンペーン
「GET HAPPY」では、大切にしていた洋服やアクセサリーを受け取ると、販売してその収益をチャリティや地域振興に活用。提携パートナーになって寄付品集めを行い、寄付金を受け取ることもできます。

メッターは寄付を集めるためにGET HAPPYと提携。2016年3月から「ファミリーホーム設立のために、家庭に眠っている洋服やアクセサリー、小物を提供してください」と呼びかける「らくいち1万点キャンペーン」をスタートしました。

同時に、「らくいち1万点キャンペーン」に協賛する寺院や企業、団体・個人を募集。協賛者は「約100点の寄付品集め」「チラシ・送付票などの配布協力」「寄付品の持ち込み場所となる(選択可)」などが求められます。現在、寺院を中心に協賛者も増えてきています。

「らくいち1万点キャンペーン」に寄付品を提供するのはとても簡単です。まず、GET HAPPY(http://gethappy.jp)あてにウェブフォームで寄付品の内容等を連絡。「寄付品送付専用着払い伝票」が届いたら、住所・名前・電話番号等を記入して梱包した寄付品を送るだけです。あるいは、近所に協賛寺院があればそこに持ち込むことも可能です。

「らくいち1万点キャンペーン」は2016年12月末まで続ける予定。「使わないけど、高価なものだったから」と手放しかねているような品物があるなら、このキャンペーンに参加してみてはいかがでしょう。

らくいち1万点キャンペーンについて詳しくはこちら



ファミリーホームづくりのノウハウを提供

 
誓願塾プロジェクトメッター理事のひとり、将来、ファミリーホーム開所を目指す北村さんがお寺で開いている「誓願塾」。北村さんは、岐阜県郡上市立郡南中学校で心の相談員を務めながら、親や親族との面会や帰宅の機会が少ない子どもたちを受け入れる「週末里親」も行っています。

一般的に、里親を経験していた人が法人を立ててファミリーホームを設立する事例はありますが、ファミリーホーム 開所を目的とした法人設立の事例はほとんどありません。里親制度よりもファミリーホームの方が国の支援は手厚いとはいえ、法人として養育者を雇用して運営する場合は、法人側の収益はほとんどゼロだからです。しかも、お坊さんが法人を設立してファミリーホームに取り組むのは異例中の異例です。

児童養護の現場経験の少ないお坊さんたちにとって、ファミリーホーム設立はいばらの道です。それでも、ファミリーホーム設立のために奔走しているのは、ごくシンプルに「仏教者として、お坊さんとして必要だと思うから」と今城さんたちは考えているのです。

ファミリーホームむろじの運営が軌道に乗り次第、第二号、第三号のファミリーホーム設立にも着手する予定です。

2014年3月末、全国のファミリーホーム数は223カ所(厚生労働省資料)。国は、将来的に1000カ所のファミリーホーム設立を目標としていますが、実態はまだまだといったところ。「むろじ」で得たノウハウをもって、無住寺院を活用したファミリーホーム設立も視野に入れているそうです。

今城 たとえば、檀家数ゼロの田舎の寺院の住職で、ファミリーホーム設立に興味を持つ人がいたら「まず里親から始めて、ファミリーホームにできますよ」とノウハウを提供できる。そういうかたちでのお寺再生も考えられるなあと思ってるねん。積極的に「お寺の有効利用のためにがんばろう」というわけではないんだけどね。もし関心ある人がいたら、メッターとして手伝いますよ、と。



「他人に依存する慈悲」ではなく

 
imashiro_3.jpg2014年末、京都でお会いしたときにお参りした誓願寺にて。ご真言を唱えてすっと阿弥陀さまに向き合う今城さんの後ろ姿にグッときました。

オンラインでの相談活動に力を入れていた頃の今城さんは、文字通り寝る時間もありませんでした。相談者が集まるSNSコミュニティの管理、相談者からのメールへの返信、電話の対応。場合によっては直接会って話を聴くこともあったそうです。その頃のことを、今城さんは「慈悲というものが他人に依存して始まっていた」と表現します。

今城 もともと、困っている人や苦しむ人と出会って「なんとかしてあげよう」というのが発端であって。そんななかで、たまに「ありがとう」と感謝されたり、苦しんでいた人が元気になる姿を見たりして、それを燃料にして続けて行く慈悲のかたちがあったわけ。でも、本来の仏教の話では慈悲は自分のなかから湧いてくるものやん?活動するなかでずーっと、お坊さんとして智慧を目指すことをもう一度ちゃんとやらなあかんと思っていたんや。

智慧とは「悟りに至った状態」のこと。真言宗では仏さまを拝み、あるいはさまざまな行を重ねるなかで「自らもまた大宇宙と本質的に同じものである」と直感的にわかる状態「即身成仏」を目指します。

今城さんは、自らの活動を今後も続けるうえでは、もう一度「智慧と慈悲は可分か不可分か」という問いを、もう一度しっかりと考えたいと思っていました。そんなときに、出会ったのが「アップデートする仏教(藤田一照/山下良道)」という本。藤田さんと山下さんが真剣に「智慧」について対話している部分に惹かれた今城さんは、もともと知人でもあった藤田さんに連絡し「アップデートする仏教を体感しよう」という場を、大阪・四天王寺で開いたのです。

「アップデートする仏教を体感しよう」は、宗派や僧俗を超えて多くの人たちを惹きつけ、2014年から2015年にかけて、大阪、名古屋、東京、博多、先代、金沢、広島、北海道、京都と全国9カ所を巡るシリーズイベントとなりました。

今城 「アップデートする仏教」というタイトルでやっていたけど、自分のなかでは「智慧と慈悲」というテーマを持って1年間やってみて。「智慧と慈悲は不可分なものである」と結論を出せた。智慧があれば、ずーっと慈悲が湧いて来て、バーンアウトすることなくやっていけるとわかったから。最終的には慈悲の永久機関エンジンになりたい。


アップデートする仏教を体感しよう@京都2015年10月、京都・法然院での「アップデートする仏教を体感しよう」。この回にてシリーズはいったん終了となりました。

藤田さん、山下さんは曹洞宗で修行を積んで来られたお坊さん。他宗のメソッドを体験することによって、今城さんは真言宗がいう「智慧」をより深く理解できたそうです。目指すものは同じであっても、プロセスとしての方法が異なっているだけなのだ、と。この大きな再確認のうえで、今城さんは今まで通り真言宗の僧侶として修法や阿字観などの瞑想を通して、智慧に至る道を歩んでいこうと考えています。

今城 慈悲の永久機関エンジンになるには、実際に智慧を得なければいけないからね。困っている人、苦しんでいる人を助けようとして行動を起こすのは、お坊さんじゃなくてもできるよね。お坊さんとして活動をするなら、もう一歩進んで解決しておかなあかんことがあると思うんやね。その部分が智慧と慈悲ということになってくると思う。


「虐待されている子どもたちに安心できる場所をつくる」ということに取り組むことと、自らの仏道修行をていねいに重ね合わせていこうとする今城さん。「お坊さんとして活動する」という言葉からは「生きることすべてを仏道にする」というような、大きな覚悟さえ感じました。来春、ファミリーホームが開所したら、ぜひ見学に伺いたいと思います。



らくいち1万点キャンペーン(2016年12月末まで)

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まだ使える不要品を"寄付"としてリサイクル。販売した収益は、メッターの北村理事が運営する里親「誓願塾」や児童養護施設「岸和田学園」の子供たちのための寄附金、また「ファミリーホームむろじ」の開設資金に生まれ変わります。それと同時にリユース・リサイクルの実践によってエコロジカルな取組みの本質を理解し子供たちをはじめ社会全体への啓蒙活動の一環としても活動を広げていくキャンペーンです。寄付品の内容をウェブフォームで連絡すると、数日後に写真のような宅配便の着払い伝票が届きます。これを使用して発送するだけ、とても簡単です。
 


杉本恭子 (すぎもと きょうこ)
>>プロフィールを読む 大阪生まれ東京経由京都在住のライター。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒業。お寺取材を経験するうちに「お坊さん」に興味を持ちインタビューを始める。