【インタビュー】気鋭のウェディングドレスデザイナー光田実土里さんが語る、瞑想と創造力の深い関係

【インタビュー】気鋭のウェディングドレスデザイナー光田実土里さんが語る、瞑想と創造力の深い関係

 今、日本をはるかに超える勢いで、アメリカやヨーロッパでは仏教瞑想がムーブメントとなっています。日本でも仏教瞑想やマインドフルネスに関する書籍が増えてきており、目にしたことのある方、興味を持っている方も多いのではないかと思います。

  仏教瞑想には、心が安らぐという効果があるほか、脳の機能が新しく開発されて、創造力・クリエイティビティが豊かになる効果があるということが、最近の研究等でわかってきているようです。

 

 創造力やクリエイティビティを必要とする職業の代表格といえば、アーティストではないでしょうか。今日は、「アーティスト活動に瞑想は不可欠」と語る、ドレスデザイナーの光田実土里さんに、瞑想と想像力の深い関係について、お話を伺ってきました。 

 光田実土里さんは「ルーチェ・クラッシカ」を主宰する、ウエディングドレスのデザイナー。デザインから制作まで一貫して手がけ、独自の世界を編み出していらっしゃいます。

 蜷川幸雄監督の舞台のポスターやプログラムで、女優の蒼井優さんや大竹しのぶさん、田中裕子さんが身にまとうドレスを制作するなど、気鋭のデザイナーとしても知られています。 

 

 光田さんのドレス制作に、瞑想は、どのような影響を与えているのでしょうか? 


瞑想によってやわらいだ、ドレスデザイナーとしての苦悩

 光田: 

 わたしはもともとヨガをやっていたのですが、ある日、ヨガのレッスンを一緒に受けている友だちが「今度、瞑想の合宿に行くのよ」と言うのを聞いて、「え、何それ?」と興味を持ったのが、瞑想に出会うきっかけでした。

 これから行くということだったので、体験談ではなかったんですけど、話を聞いてすぐに、「自分も行きたい」と思ったんです。

 

 ウエディングドレスを作る仕事をしているというと、一見、華やかに思われがちです。「ルーチェ・クラッシカ」アトリエに来てくださったお客さまも、白いドレスを見て、「本当に素敵ね」と言ってくださいます。

 ドレスを見てお客さまが喜んでくださることは、やりがいを感じることですし、「こんなお仕事をされていて素敵ですね」と言われたときも、もちろん「はい」と返事をするのですが、実は、独立して十年ぐらいは、それ以上にプレッシャーや重荷のほうが強くて、実はけっこう辛かったんですよね。いつも、街行く人々は楽しそうだなと思っていました(笑)。 

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 おかげさまで、独立してからずっと忙しかったんです。独立してすぐに雑誌などで取り上げていただきましたし、ウエディング雑誌や『Hanako』、『オズマガジン』 などの結婚特集で取材を受けることも多かったです。

 最初はできるかどうかわからない手探りで不安だったのですが、お客さまからの注文はどんどん入りましたし、雑誌の企画でも企画に合うようなドレスを作ってくださいと注文が入りました。

 ですから、朝から晩までずっと仕事でした。朝歯を磨いてから夜寝るまでの間、ずっと仕事をしていたんです。

 それで、心のバランスを崩してしまっていたんでしょうね。今思えばありがたいんですけど、そのころはまったく余裕がなくて、苦しい日々でした。 最初の5年ぐらいはほとんど休みも取れなかったかったですし、ちょっと休みが取れたときでも、ずっと仕事のことばかり考えてしまっていたんです。

 それで、瞑想にも興味を持ったんですけど、でも最初、瞑想は自分にとっては壁が高くてできそうにないとも思ったんですよ。昔、本を読みながら自己流で瞑想をやってみたことがあったんですけど、そのときは全然何もできなくて、ちょっとわたしには無理かなというイメージがありました。

 ですから、そのときの「行きたい!」という気持ちは、瞑想そのものよりも「十日間誰ともしゃべらない」というルールを聞いて、それに興味を持ったといったほうが正しいかもしれません。十日間しゃべらないということは、なかなか人生にはないことですから、そういった体験をしたら、自分がどうなっちゃうんだろう、っていう好奇心があったんです。

 それが9年前の夏休みのことですね。わたしが参加したのは十日間の瞑想のリトリート(*1)でした。そのリトリートは、仏教を強調することはなく、瞑想のメソッドだけを集中して教えるという感じのリトリートでした。夜の時間に、なぜこの瞑想法を行うのか、瞑想をどのように実生活に生かすかなどの説明はあるのですが、仏教というキーワードはほとんど出てきませんでした。ですから、わたしは仏教のことはあまり知らないまま、今に至っています。瞑想自体が楽しいという感じですね。

 

 瞑想をやって初めて、自分の置かれている状況が、客観的に見ると、けっこういい状況かもしれないと思えました。それまでは本当に「辛い、怖い」という感じだったんですけど「ちょっと待てよ」と思って、やっと自分が仕事を楽しいと思えるようになりました。

 もちろん瞑想をして、辛さや厳しさがすべて解消されたわけではないんですけど、実は仕事を喜んでいる自分がいるのを、瞑想をやることで発見できたんです。リトリートに行って瞑想して、自分の心の中のいらないものをどんどんよけていったら、ウエディングの仕事はやりがいもあるし、楽しいことなんだと気付きました。「実は好きだった」ということを思い出したんです。基本的に手作業が好きですしね。

 もし瞑想をやっていなかったら、ウエディングドレスを作ることはひたすら苦しいだけで、我慢して、耐え続けていたのかなという気がします。そういう意味では、瞑想との出会いはすごく大きかったと思います。ヨガも今も続けていますが、わたしにとってヨガは体のバランスをとるもので、瞑想は心のバランスをとるもの、という感じですね。なんとなく、ヨガだけだと心のバランスまではとれないような気がしています。

 

瞑想と創造力 

 わたしはデザイナーなので、定期的にウエディングドレスのコレクションを発表しています。

 コレクションのテーマは、瞑想のコースを終えたあとにひらめくことが多いです。「これにしたい!」と、自然と出てくるんですよね。リトリートの休み時間だったり、リトリートの直後だったり、いろんなタイミングで、インスピレーションがわいてきます。 

 

 最初にコースを受けたのは和歌山だったのですが、リトリートの帰りに虹を見て、虹に関係するコレクションを作りました。石川県で行われたリトリートに参加したときには、日本海の激しい風が印象に残っていたので、その次のコレクションは「風の音(かぜのね)」というコレクションになりました。そのときに印象に残ったことをテーマにしたくなるんですよね。

 石川県のリトリートの施設は、まわりに海しかないところで、雪も降っていて、忘れられない体験ですね。ちょうど年末年始のお休みの頃だったのですが、東京では聞いたこともないような風の音がずっと聞こえて来るんですよ。

 わたしはその風の音を聞いて、日本のウエディングに軽やかな風を吹かせたいなと思いました。日本の婚礼って、ホテルや結婚式場で行われますよね。室内で、落ち着いたイメージです。窓は閉め切られていて、ライティングされていて、少し閉塞感がありますよね。

 わたしは「そこに風を吹かせたらいいんじゃない?」と思ったんです。そういう気持ちが自然とわいてきました。瞑想をしなければ気づかなかったことです。あんなに一日中、風の音の近くで瞑想していたから、そのパワーを受け取ったんだと思います。

 十日間のリトリートでは、他人と話すこともないですし、アイコンタクトを取ることすらしないので、コミュニケーションに関する脳の部分を使わなくなり、違う部分の脳の感覚が鋭敏なってくるような気がします。そして自然をすごく感じやすくなりますね。人と触れ合うストレスがないので、植物を見たり空を見たりしたときに、すごく敏感に体が感じるようになるんですよね。

 それがけっこう、自分の中では大きいですね。自然と意思疎通できるというと、大げさすぎるかもしれませんが、でも実際、直物に対して心の中で話しかけると、答えてくれる感じがします。

 リトリートは自然の中で行われることが多いので、空気だったりおいしい水だったり、日常生活だと忘れてしまっていることを思い出せるんですよね。自然は人間にこんなにも多くのことを与えてくれているのかと気づいて、感動するんです。それが自分の中では楽しいことなんです。

 自然の力は偉大だなと思います。自然に対する気持ちは、瞑想が深まると同時に深まっていくんです。瞑想をしていると、ただ自然の中にいるだけでは気づかないようなことに気づけるんですよね。

 インスピレーションでドレスを作っているというと、なんだか一方的で、「自分がこんなものを作っているんだ!」と思い上がっているような感じも少しするのですが、そうではなくて、わたしの場合は自然から受け取ったものを、お返ししたいという気持ちかもしれません。お返しとしてのアウトプットが、たまたまドレスだったという気がします。

 昔、わたしは立体裁断を習っていて、そのときの先生は、フランスでの経験を持つ日本人の女性の方だったんですけれども、先生のキーワードは常に「ナチュール」だったんですよ。造形をしていく際にきれいかどうかは、自然かどうか。布を直接ボディに当てて作っていくんですけど、まるで植物が咲いているような感じで作りなさいと。

 植物のフォルムってきれいですよね。洋服を作るときもナチュールにね、と厳しく言われました。ドレスというと、ナチュールとはかけはなれた存在のように思えるかもしれませんが、でもやっぱりナチュールをその中に表現したいという気持ちがわたしの中にはあって、自然の造形にかなうものはないと、植物のことを尊敬しています。

 ですから、ドレスを作る上でも、存在感はあるけれども主張は強すぎない、自然に溶け込むぐらいのラインを目指していて、フリルひとつとっても違和感のないものを探し続けているんですよね。

 自分でもわからないんですけど、植物のパワーというのは大きくて、朝、花瓶のお水を取り替えるだけで、植物のエネルギーをもらっている感じがします。朝はまず、お花のお水を替えて、猫にごはんをあげて、人間はその後、みたいな感じです(笑)。そうすると仕事に取り掛かったときに、自分でやろうやろうと思わなくても、そこからのエネルギーをもらっている気がするんですよね。

 日常もそういうサイクルになっていますが、リトリートのときは、もっとパワーを感じやすくなっていると思います。

 

今後のこと

  わたしが瞑想を始めた9年前は、今ほど瞑想がメジャーでなかったせいもあり、瞑想の話をすると、「えっ!」と驚かれる反応も少なくなかったです。それに比べて最近は、ファッション誌などでも「瞑想の◯◯」というようなことが、違和感なく書かれていますよね。瞑想に対する壁が以前に比べるとなくなってきているのかなと感じます。

 

 瞑想をすることによって、今、自分が生きている時代だけじゃなくて、昔の人のこともすごく感じるようになりました。おじいちゃんおばあちゃんの時代はどうだったんだろうかと、よく考えます。自然に対して敏感になるのと同時に、自分の祖先にも敏感になってきているんですよね。そこからずっとつながっているから今があると感じます。

 普通に生活していると今の時代のことしか考えないですけれども、瞑想していると、いろいろなものに対する感謝の気持ちがわいてくるんですよね。今わたしたちがこういう生活ができているのは、これまでの人たちの知恵のおかげですし、今、わたしたちが豊かに暮らせているというのは、豊かではない厳しい時代を生きて来たおじいさんたちの苦労があったんだろうなとか、誰にも教わっていないし言われてもいないのに、すごく感じるようになったんですよね。

 その一環として、最近は日本の伝統食にも興味が湧いてきて、醤油や味噌や梅干しなどの伝統食を自分でも作ってみるようにもなりました。伝統食によってわたしたちが生かされてきたんだという、今まで見えなかった部分を感じています。

 瞑想をする時間は、ほかには変えられない貴重な時間だと思っています。

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*1 *1:光田さんが参加されたのは、日本ヴィパッサナー協会の瞑想コース。京都と千葉にリトリートの拠点があるが、工事中の数年間は、石川などでもリトリートが開催されていた。


原始仏教ガール (げんしぶっきょうがーる)
>>プロフィールを読む 石川県生まれ。本名、中田亜希。慶應義塾大学理工学部卒業。同大学大学院理工学研究科修了。工学修士。新聞社、出版社勤務を経て、フリーランスの編集者&ライター。アルボムッレ・スマナサーラ長老の著書『自分を変える気づきの瞑想法』(サンガ)をきっかけに仏教に興味を持ち、初期仏教・瞑想を学び始める。ブログ「原始仏教ガール's 日記」 http://musicbuddha.hatenadiary.jp