【レポート】お寺と神社から土地を読み解く 釈徹宗×高島幸次『大阪の神さん仏さん』

【レポート】お寺と神社から土地を読み解く 釈徹宗×高島幸次『大阪の神さん仏さん』

浄土真宗の僧侶であり、宗教学者の釈徹宗先生と大阪・天神祭研究の第一人者として知られる歴史家の高島幸次先生による、大阪「ナカノシマ大学」での対談講義が『大阪の神さん仏さん』として出版されました。「仏教」「お寺」「神社」などのキーワードに感度の高い、彼岸寺読者のみなさんにもぜひおススメしたい一冊ですので、ちょっとていねいに紹介したいと思います。

お寺と神社から土地の歴史を読み解くオモシロさ

釈徹宗×高島幸次著『大阪の神さん仏さん』『大阪の神さん仏さん』は「神さん編」と「仏さん編」の二部構成。「神さん編」では、高島先生が神社の成り立ち、神社が仏教から受けてきた影響、日本人の宗教観、そして天神祭を中心に「祭り」を鮮やかに論じられています。「仏さん編」では、釈先生が日本仏教のなかでもとりわけ大阪での浄土真宗の歴史を追いながら、浄土真宗が大阪の風土に与えた影響を考察。いずれも、後半におふたりの丁々発止の対談が繰り広げられ、「さすが大阪生まれ!」と感心させられるはず。ぐいぐい引き込まれて読んでしまいました。

タイトルは「大阪の」と入っていますが、大阪という都市を例にして日本を読み解く本としても充分に読めます。地形や気候が人々の暮らしや気質に影響するのと同じように、宗教もまた風土とからまりあいながら人に影響し文化をつくっていくことがわかれば、自分の住む街と人の見え方がどんどん面白くなると思うのです。

近年、タモリさんが土地の"高低差"から街の歴史を紐解くテレビ番組『ブラタモリ』(NHK)や中沢新一さんの著書『アースダイバー』が話題になり、各地で"街あるき"が行われるなど、自らの足元に目を向けようとする人が増えています。3.11以降はそういった傾向がさらに強まっているように思います――揺れる時代のなか「自分たちの足場はどうなっているんだろう?」と確かめようとするかのように。

東日本大震災は『大阪の神さん仏さん』の元になった「ナカノシマ大学」での第一回目の講義の後に発生しました。直接的に震災に触れる部分は多くありませんが、いつもどこかで自然と人間の関わり、神仏と人間の関わりを意識しながらお話をされているようにも思えます。大きな視点から、今暮らす街とそこで行われてきた営みを見直していくうえでも、今読みたい一冊だと思います。


担当編集者さんに聴く『大阪の神さん仏さん』誕生秘話

 140Bの敏腕編集者 大迫力さん
『大阪の神さん仏さん』を出版したのは、大阪の出版社かつ手練の編集集団140Bさん(http://140b.jp/)。私もお仕事でお世話になっており、実は『坊主めくり』は雑誌『キョースマ!』(2009年夏号「この夏、行きつけにしたい京都のお寺」、休刊中)で法然院の梶田真章さん永運院の土肥真司さんの対談を担当したことがきっかけでした(いずれの方も"めくり"済み!)。

同号を取り仕切っていたのが、『大阪の神さん仏さん』を編集した大迫力さん(この人も何かと仏縁ある人です)。「ナカノシマ大学(http://nakanoshima-univ.com/)」の企画運営をされており、本書の元になった講座も彼の手になるもの。当初は「釈先生を軸にしていろんな人を登場させて大阪の歴史の全体像を見ていこう」と考えていたそうです。

「ところが、高島先生と釈先生のふたりがおもしろすぎたんですよ」。高島先生は、大阪の歴史、天神祭を語りうる歴史家であり、聴き手を飽きさせないサービス精神豊かな人。そして、釈先生は宗教学者として仏教をわかりやすく伝える著書は多数あるものの、大阪のことだけをがっつり語ることはそう多くありません。かくして「大阪のことを何でも知っているふたり」による全5回の講義が行われることになりました。

「ナカノシマ大学」の講義では、「後半30分からぐーっと上がってきて、ものすごいドライブ感」があったそう。「そのへんの"ウィーン"とお二人の思考が回ってるような感じは、本でも充分楽しんでもらえると思います」。大阪、お寺、仏教、神社、宗教のいずれかのキーワードにアンテナが立つ人はもちろん、「本屋に行くのが好きな人、街で飲んだり食べたりするのが好きな"街好き"な人にも読んでほしい」と大迫さんは言います。

今後は、本書のプロモーション企画を精力的に行う予定で、「呼ばれたらどこでも行きますよ!」とのこと。『大阪の神さん、仏さん』を題材に、日本各地のお寺や神社で宗教性から土地を読み解く場が開かれたら、それぞれの街の魅力が新たに発見できるのではないでしょうか?


出版記念トークショーにも参加してきました

『大阪の神さん仏さん』出版記念トークショー@ジュンク堂大阪本店
2012年8月21日、ジュンク堂大阪本店で『大阪の神さん、仏さん』の出版記念トークショーが開かれました。お勤め帰りの大阪人が続々と集まってきて、会場はあっさり満員御礼。「ナカノシマ大学」以来のおふたりのファンとおぼしき人も少なくありません。

トークショーの幕開けは、ちょうど一か月前に終わったばかりの天神祭から。「今年の天神祭はどうでした?」と釈先生が水を向けると、高島先生は「よしきた」と言わんばかりにディープかつわかりやすく天神祭を語りはじめます。おふたりの当意即妙なやりとりは本を読んで感じていたままです。これまで、釈先生の講演や対談は何度も参加しましたが、こんなにリラックスして話す釈先生を見るのは初めてかも......というのもすごく新鮮でした。

やがて、トークは天神祭から『大阪の神さん仏さん』の内容へとスルッと展開。日本の神さんの両面性(荒魂と和霊)を解説しつつ、日本の神々がいかに豊かに人間世界を映してきたのかに話が及びます。また、神道では照葉樹(榊)、天神信仰では針葉樹(松)が用いられる理由など、身近ながら気づいていない神社のヒミツが明かされていきました(※もちろん本書にも書かれています)。

日本の植生と宗教の関わりを考えることは、「私たちが暮らす土地の豊かさがいかにいろんなものにつながっているか」を見ていく手がかりにもなるとは目からウロコ。大阪の街が浄土真宗に深く関わりながらつくられてきたことは、本書でじっくり読んでいただきたい部分ですが、個別大阪に留まらず「宗教を知る」ことでしか見えない土地の豊かさがあることを知らずにいるのはモッタイナイ! とつくづく思わされました。

おふたりのトークを生で体験してから本を再読すると、読書時のライブ感が10倍増しになりました。もし、どこかで『大阪の神さん仏さん』関係のイベントがあったら、ぜひ足を運ばれることをおススメします。トークショーとしてこれほど楽しいモノはそう多くありませんし、本を読むたびにその楽しさを追体験できること請け合いです。読書の秋の一冊にどうぞ!





杉本恭子 (すぎもと きょうこ)
>>プロフィールを読む 大阪生まれ東京経由京都在住のライター。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒業。お寺取材を経験するうちに「お坊さん」に興味を持ちインタビューを始める。