禅僧が見たヨーロッパ禅の今、フランス摂心レポート(2/3)

禅僧が見たヨーロッパ禅の今、フランス摂心レポート(2/3)

編集部より:天心さんがパリから行う食事作法パフォーマンスのUstream中継は、本日2月4日(土)の深夜2〜3時と明日2月5日(日)の23時〜24時に行われます。ぜひご覧ください。イベントの詳細は天心さんのブログをご確認ください。(構成:松下弓月)


禅僧が見たヨーロッパ禅の今、フランス摂心レポート(1/3) 」より。
(写真:僧堂の様子)


進んで坐りたくなる、温かくて心地良いフランスの坐禅


ヨーロッパの人々は坐禅に対して本当に熱心です。開始時刻よりもかなり早くから既に坐っている方がおり、始める前の動作も非常にスムーズで、坐禅中も全く動きません。日頃からいかに進んで坐禅に取り組んでいるかが良く分かります。


4_zazen.jpg曹洞宗では、40分の坐禅、ゆっくり歩く経行が10分、休憩が10分で1セットというのが伝統的なスタイルで、摂心中はこれを一日に何度も繰り返します。サン・デムールでも基本的にこのスタイルを踏襲していますが、今回は初心者も多かった為、フィリップ老師が全体の「気」をみて時間の調整をしていました。


(写真:坐禅中の様子)


一緒に座っているうちに、両脚を組む結跏趺坐(けっかふざ)よりも、半跏趺坐(はんかふざ)[※片足のみを組むこと]の方が多いことに気づきました。 体格の違いゆえでしょうか、なかには座布団を敷いたり片足にだけクッションを置いたりする方もいたり。また、警策(きょうさく)[※坐禅中、堂内を巡回し必要に応じて肩を打つこと]を、多くの方が自ら進んで受けていたのも日本と異なるところでした。


5_kinhin.jpg中でも大きく異なるのは、坐禅している時間の半分以上で「口宣(くせん)」という静かな法話が行われる点です。これはサン・デムールで師と仰がれている弟子丸泰仙(でしまるたいせん)老師の教えに基づくやり方です。フィリップ老師がフランス語で話されるので、私には正確な内容が理解できませんでしたが、適度な笑いも交えられておりとても良い雰囲気でした(改めて仏語を勉強しようと思いました)。


(写真:経行の様子)


日本の作法とはだいぶ異なるようですが、朝は塔袈裟の偈(たっけさのげ)という偈文(げもん)[※短い詩文のこと]を唱えてから袈裟をつけますし、坐禅を始める前に体を揺らして重心をみつける左右揺身(さゆうようしん)[※坐禅をはじめるときに左右に体を揺らしてポジションを定めること]も全員行っていました。


振り返ってみるに、とにかく坐禅中は道場全体が温かくて心地よい空気に包まれており、彼らが進んで坐禅を行うのも頷けるようでした。


正式な作法が求められる法要


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(写真:法要道具一式と警策)


永平寺では摂心中も朝・昼・夜と一日三度の法要が行われますが、サン・デムールでは、はじめは朝・夜の二度しか法要が行われず、あまり儀式を重視していない様子を感じました。 どうやらフランスでは儀式を重視する派とそうでない派に大きく分かれているようなのですが、儀式や作法を重視しない傾向は今回私が一番気になったところです。


実際、法要に参加してみると初心者が多いとはいえあまりにたどたどしい読経です。あとで聞いてみると、「般若心経」ですら数年前にやっと皆で唱えられるようになったような状況だとか。儀式を重視するかどうかということよりも、一番大切なのは正確な進退(しんたい)[※作法のこと]が伝承さているかどうかです。 印金(いんきん)、磬子(けいす)木魚、太鼓などの仏具はしっかりしたものを使っているようでしたし、せめて一度でも日本の寺院で読経の音を聞いて、しっかりと唱えられるようにしていただきたいと思いました。


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(写真:アルファベットで記された経本)


日本とはだいぶ違う食事


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(写真:食堂の様子)


永平寺の食事は応量器(おうりょうき)[※僧侶が一人一揃い持つ食器]という食器を用い、「常に三本の指だけを用いる」「さじは縦に一方向のみしか動かせない」など、とても厳格な作法に則って行います。写真(第1回冒頭に掲載したもの)は今回の摂心で私が使用した応量器ですが、本来は器が三カ所にあり、さらに浄巾(じょうきん)と呼ばれる布巾や刷(せつ)という特殊な器具などが用いられます。


フランスではこれが非常に簡易にアレンジされており、スプーンやフォークを乗せた一つの器を風呂敷で包むだけです。 さすがフランスと言うべきか摂心中でも、コース料理のようにひとつ食べ終わると次が出てくるようになっており、だから食器も一つで足りたのでしょう。 作法も偈文はしっかり唱えられていたものの、かなりラフで自然な食べ方でした。


食材も少し違います。 永平寺では朝食を小食(しょうじき)と呼び、沢庵がつきますが、こちらでは朝食を「guen mai」と呼び内容もお粥と胡麻塩のみでした。しかも、この粥には玄米、にんじん、セロリなどと共に、五葷(ごくん)と呼ばれ、永平寺では料理に使われない葱や玉葱が入っていました。


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(写真:参加者たちの応量器)


さらに菜食主義者が少ないこともあって、時には肉など動物性の食材が使われることもあります。お釈迦様は托鉢で頂いたものは選り好みせず全て頂いていたという話もありますので、この点には私も異論はありませんが。


食べ終わったら応量器にお湯を入れてキレイに中を拭ってから片付けます。日本なら沢庵で器をキレイにするところですが、フランスで使用するのはなんとパン。そして食後にはコーヒーやお茶を飲みながら歓談をし、それから各自の部屋でしばらくシエスタをするのがフランス流でした。


生活も修行のうち、摂心での作務


10_souji.jpg禅宗では行住坐臥(ぎょうじゅうざが)という言葉にあるように、生活の全てが修行と考えられていて、掃除などの作務も修行のひとつとしてとても大切にされています。永平寺では作務に留まらず、お寺の運営に関する一切の業務が内容によって部所が分けられており、すべてを僧侶が分担して行っています。


サン・デムールでは数名の重要な役職はフィリップ老師が決めますが、その他の作務担当は挙手制で決めていました。


トイレや回廊などの掃除や、他にも「記録写真の選定」「袈裟や絡子の縫製」「フィリップ老師の提唱を記録、印刷」などの係があり、食事の準備や片付けも行います。毎日の食事は永平寺と同じく典座寮(てんぞりょう)と呼ばれる料理役に選ばれた方々が作ってくださいました。


(写真:掃除の様子)


自分で作る袈裟と絡子


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(写真:お袈裟)


この摂心で一番感心したのが、お袈裟(けさ)と絡子(らくす)[※簡易なお袈裟]を自分たちで作るという点です。これは是非とも日本でも実践して欲しいところです。もちろん永平寺でも自分で縫われる方はいらっしゃいましたが、僧侶が自分で縫製するのは一般的ではありません。しかし、もともとお袈裟は捨てられていたようなボロ切れを僧侶自身が拾い集めて作ったものでした。特に禅宗においてお袈裟を頂くということは、お釈迦様から続く「法」を正しく受け継いだということの証です。ですから、自分のものを自分で縫うというのはとても大切なことと感じます。


また、 絡子は受戒(じゅかい)して、仏の教えに帰依する際に、師匠から頂くのですが、日本ではこの裏側に師匠などに書を書いて頂く習慣があります。この習慣はフランスにも伝わっていて、花などの水墨画と共に「禅語」や沢木老師が好んだ「大智禅師」の詩が書かれているのを見ました。サンガにも書道に関心を持っている方が多く私も少し教える機会がありましたが、やはり使い慣れない筆に慣れるのは時間がかかるようで、絡子裏の書は何人かだけに任されているようでした。


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(写真:絡子の裏書)


禅僧が見たヨーロッパ禅の今、フランス摂心レポート(3/3)」へ続く(明日更新予定)。


虚空山彼岸寺 (こくうざん ひがんじ)
>>プロフィールを読む 超宗派仏教徒によるインターネット寺院虚空山彼岸寺です。