ゼロからはじめたお寺を成功させる秘訣とは? 天野和公『みんなの寺のつくり方』

ゼロからはじめたお寺を成功させる秘訣とは? 天野和公『みんなの寺のつくり方』

仙台に有名なお寺がある。といっても、立派なお堂や有名な仏像があるわけでもなく、何百年もの歴史がある古刹というわけでもない。それどころか、左官屋の事務所兼住宅だった建物を改築したお寺で、まだ出来てから10年にも満たない。にも関わらず、お参りする人も多く地域にも愛され、「理想のお寺」のひとつだと考えているお坊さんも少なくないという。


仙台市泉区の新興住宅地の一角にある「みんなの寺」は、浄土真宗の僧侶だった天野雅亮(がりょう)さんと、宗教が好きが高じて葬儀会社で働いていた天野和公(わこう)さん夫婦によって、「いつでも誰でも自由に立ち寄れ」て「気軽に悩み相談や仏教の話ができる」ことを目標に創建されたお寺だ。阿弥陀仏を本尊とする浄土真宗の教えをベースに、ヴィパッサナー瞑想などテーラワーダの教えも実践する活動をしている。


2002年の開山時には明日の収入の見込みもなかったが、法定上最短の3年で宗教法人格を取得し、9年目となる2011年には500軒もの檀家を獲得するほどとなった。稀に見るほどの成功を収めたみんなの寺の、お寺作りの過程やノウハウ、そして経営について包み隠さず公開したのが本書である。


「お寺開山志願者」に伝えたいことすべてを書いたというだけあって、内容もバラエティに富んでいる。ふたりの生い立ちと出会いから、同じ宗派の近隣寺院にお寺作りを反対され単立寺院という立場を選ぶまでの顛末。お寺として本来の目的を見失い、かえって人を傷つけてしまったこと。そして、誰もが気になるであろう一年間にどれくらい葬儀があって収入がどれくらいあるのかまで(住職の給与額が書かれた仏教本がどれだけあるだろうか?)。成功も失敗も率直に語られたお寺作りの経験談から学ぶことは多い。


一緒にお寺を作る人を探していたという雅亮さんは、和公さんと出会って二度目で「一緒に、お寺をつくらない?」とプロポーズしたのだとか。ふたりは二ヶ月には入籍し、なんと半年後にはお寺を開いていたそうだ。これだけではなんの準備もせずにお寺を作ったかのようだが、本書を読み進むにつれ実は長い準備期間があってはじめて成功したことが明らかになってくる。19歳で得度してから、お寺の職員として現場経験を積みつつ、コツコツ貯金して33歳で1000万のお寺資金を作った雅亮さん。そして、子どもの頃から興味を持っていた宗教を大学で学び、卒業後も葬儀会社で働きながら仏教について学んでいた和公さん。お寺を作りたいという気持ちがハッキリ形を取るずっと前から、二人はそれぞれの生き方を通して気づかないうちに着実にお寺をつくる準備をしていたのだ。


なんの保証もなく、成長産業でもないお寺作りが成功するかどうかは賭けでしかないが、「一生を賭けるに値する、価値のある仕事」だという。本書は自分でもお寺を作りたいという人に役立つのは当然ながら、そうでない人にとっても、力を合わせて一風変わった夢を実現していく夫婦物語として楽しめる。困難に立ち向かい真摯に努力を重ねるふたりの姿に、読み終える頃には誰もがふたりを応援したくなっているはずだ。


10月25日にちょうど開山からまる9年を迎えたみんなの寺。いまでは三人の子どもを育てながら、夫婦で力をあわせてお寺の運営以外の新たな仕事にも取り組む毎日だという。10周年、いや100年後、1000年後にみんなの寺がどうなっているかまで想像したくなる一冊だ。



松下弓月 (まつした ゆづき)
>>プロフィールを読む 1980年神奈川県生まれ。真言宗僧侶。福生山宝善院で副住職をしながら虚空山彼岸寺では編集長を務める。国際基督教大学卒、青山学院大学大学院文学研究科英米文学専攻博士前期課程修了(文学修士)。好きなものは、映画、温泉、怪談、自転車。