ダライ・ラマ法王による東日本大震災四十九日特別慰霊法要レポート

ダライ・ラマ法王による東日本大震災四十九日特別慰霊法要レポート
4月29日に東京の護国寺で開催されたダライ・ラマ法王による東日本大震災四十九日特別慰霊法要。護国寺の境内には4000人を超える人々が参拝に訪れ、Ustreamを使って行われた生中継も累計約9000名によって視聴されました。当日は当初予想されていた通りの快晴。途中の少し雨に降られたものの、予想をはるかに上回る人々にお参りいただくこともでき、大変気持ちの良い法要となりました。

慰霊法要はダライ・ラマ法王をはじめとするチベットのお坊さんと日本人僧侶によって、チベットと日本の両方のお経を唱える形式で行われました。チベット語、日本語両方の言葉の般若心経を中心に、チベット式法要が40分、日本式の法要が15分くらいだったでしょうか。参列いただいた方々にお焼香いただきながら、護国寺のご本尊如意輪観音菩薩像の御宝前でのお勤めとなりました。

そしてその後行われたダライ・ラマ法王によるご法話がまたとても素晴らしいものでした。ぜひダライ・ラマ法王がお話くださったことをお読みいただきたいと思い、今回の法要をダライ・ラマ法王事務所、護国寺とともに共催された「宗派を超えてチベットの平和を祈念し行動する僧侶・在家の会」の岡澤慶澄さん(金峯山長谷寺住職)に、レポートをご寄稿いただきました。

以下、岡澤慶澄さんのブログ『長谷寺住職日記』よりご寄稿いただきました。

*****以下、転載*****

4月29日午後2時

東京護国寺においてダライラマ法王を導師に迎え日本在住のチベット僧侶と宗派を超えて集う日本の僧侶70名余りにより東日本大震災において犠牲となられた方々の追悼法要が営まれました。

チベット語と日本で常用される漢訳の般若心経の読誦を中心とする法要が営まれ法要に引き続きダライラマ法王の法話がありました。以下録音から起こしたものです。お読みください。


こんにちは、日本の皆さま。

このたびの大地震によりまして被災された方々、津波によって大変な目に遭われました方々、そして原発の事故によりましていろいろ災害に遭われた方々がたくさんおられると思いますけれども、そのような被災地の方々は本当にひどい災害を蒙り、多くの方が尊い命をなくしておられます。亡くなった方だけではなく、そのご遺族もたくさん残されています。そのような本当にひどい災害を蒙り、本当にひどい苦しみを味わい、本当に辛い思いをひどくされる方々が大勢おられます。そのような皆さま方すべての方々に、私から、心からのご挨拶を申し上げたいと思います。

日本で大震災が起きたということが世界的なニュースで流れました。私はダラムサラでそのニュースを見まして「ああ、本当にひどいことが起こってしまった」と、心に大きな悲しみが湧いてまいりました。
 
私たち人間たちは、たとえどこにいても、たとえどのような人であっても、心から苦しみを避けたいと望み、そして幸せになりたいということを望んでいます。しかし、四大(五大)という世界の構成要素がバランスを崩したということから生じる自然災害によって、このような悲しい出来事が起こってしまいました。これ本当に悲しいことだと思います。しかも、地震や津波に加え原発の事故によって、皆さま方は苦しみを蒙っています。地震そのものは自然なる災害ですが、原発事故によって引き起こされた惨事は、私たち人間が作り出した問題です。これらのことから、私たちの心の中には様々な不安や苦しみが生じてきます。
 
私自身の心にも、非常に悲しい不幸な気持ちが心の底から湧いてまいりました。第一に、日本の方々は伝統的に仏教の国である、ということ、そして第二に、私自身の個人的な昔からの知人、親しい多くの友人が、地震、津波、そして原発事故という非常なる大惨事に見舞われているからです。そして、そのような気持ちが湧いてくるならば、私に出来ることは、祈願をし、そして被災者の方々への心からの追悼の意を捧げさせていただくこと以外にはありません。
 
私は一人の仏教徒として申し上げますならば、皆さま方の日本も仏教国ですので日頃から般若心経を唱えておられるでしょう。このような大惨事が起きてしまった時には、般若心経を読誦する法要を営むことによって、被災者の方々、そしてその周りの方々のお心を慰めるということが出来きるのです。私は、この度の大震災が起きた当時、3月14、15日のことでしたが、ダラムサラにおいて、タイからの友人たちが施主となられた法話を行い、仏教についての様々な解説をしていました。タイは上座部仏教の国ですが、上座部仏教であれ、大乗仏教であれ、仏教を重視し実践しているものとして、私たちは同じ立場にあるわけです。そこで私は、その法話の中において、タイの方々、すべてのダラムサラの僧院、そして在家の人たちに対して、「般若心経を日本の被災された方々のために読んでほしい」というお話をしました。そして般若心経を10万回読むお願いをしたわけです。

また、私がこのような大災害に遭われた国に行くことで、少しでも皆さま方のお心の慰めになれたらいいという気持ちもありました。私にできることは他に何もないのです。一般的な人間の心の持ち方を考えてみるならば、私たちの身に様々な苦しみや問題や困難などが起こった時、自分の知人がやってきて「心配しないでいいよ」と言ってくれると、心がとても慰められるものです。私自身も、大変な思いをした時に知人にそう言ってもらえたら、きっとすごく心が休まるだろうと思うので、皆さま方もきっと同じではないかと思います。
 
そんな中、たまたま私はアメリカに行く予定になっており、トランジットで4月29日に日本に立ち寄りことになっていましたので、この機会に日本人の兄弟姉妹の方々にお目にかかり、私のそんな気持ちをお伝えし、あわせて四十九日の法要を営ませていただくことが出来たらと思い、本日は参りました。この場で、私の思いが実現したことを、心から本当に嬉しく思っております。
 
さて、次に、一人の仏教の修行者の観点から申し上げましょう。

私たち仏教徒には、何らかの逆境に立たされた場合、その逆境に立ったというその状況を、自分が悟りにいたるための道の一つとする修行の方法があります。ひどい逆境という困難は「もうすでに起きてしまった」わけですから、それを無くすことはできないのです。ですから、悲しいことが起こったと、ただ悲しんで心配するだけでは何の役にも立ちません。このことについて、シャーンティデーヴァ(漢訳名=寂天)は『入菩薩行論』の中で、このように述べています。
 
もし何事かが起きて、それを何とかする方法があるならば、その方法・対策を講じる努力をするべきである。そしてそれを何とかする方法が無いのであるならば、それより悲しむ必要はないのである
 
このシャーンティデーヴァの教え、アドバイスは非常に科学的、現実的で毎日の日常生活に即した教えとなっていると私は思います。ですから、皆さま方もそのように考えていただきたいと思います。起きてしまったことはもう取り返しがつかないのです。しかしながら、落胆し、全く勇気をなくしてしまうというのではなく、「これから先」を見つめて、再建・復興のために出来る限りの努力をしていっていただきたいのです。

ところで、私は、いつも日本を訪問させて頂きます際には、日本の友人の方々、特に学校などを訪問させていただく場合には生徒さんにお話させていただく場合に「英語をぜひ勉強していただきたい」「英語力をつけてください」というお話をしています。そこで、私自身もこれからそれを実践させていただいて、英語が出来るというフリをさせていただいて(笑)、英語でもちょっとお話させていただきたいと思います。
 
(以下英語)
 
ここにも英語圏の国々からいらっしゃっている方々がいるでしょうけれども、そのような方々からするならば、私の英語がかなりのブロークンであるということはすぐにお分かりになるでしょう。私の英語は本当にたいしたことはなく、私がこのように英語で話しをすると「本当は英語が上手なのだ」と思うかも知れませんが、そんな大したことはないのです。しかしながら、私のこのようなブロークンな英語でも、大変役に立っています。なぜかといいますと、世界各国を訪問する際に、その土地の方々と直接コンタクト、お話が出来るからです。私たちは全く同じひとりの人間です。様々な感情を持ち、精神面においても、肉体面においても、全く同じであるわけです。しかも、日本の方々は釈尊の教えに従っている仏教者なのですから、全く私と同じであると思います。

そこで、私自身の体験から少し話させていただきます。
 
私たちは、チベットという自分の国を失って以来、たくさんの困難な状況に直面してきました。しかしながら、私たちは、そのような困難な状況の中において、自分自身の精神というものをますます高めてくることが出来たのではないかと思います。そのような困難な時代を過ごす中で、自分の内なる心の力というものを、より強く高めることが出来てきたのではないかと思うのです。ですから、(被災された)皆さま方は、非常に困難な状況に直面しておられますが、そのような悲劇に打ち負かされることなく、現実の状況を正しく理解するということによって、自分自身の状況への対処の仕方をより強めていってほしいのです。それによって、皆さま方の心の内なる力というものをますます高めていくことが出来ると思います。日本の皆さまは第二次世界大戦で非常に多くの損害を受け、国土も多く破壊されました。さらに長崎と広島において原爆が落とされてしまったということから、たくさんの尊い命が失われてしまいました。しかしながら、日本の兄弟姉妹の皆さま方は、そんな悲しい状況でもけっして落胆することなく、立派に立ち上った民族であります。焼け野原の中から立ち上ったという過去の実績があるのです。ですから、今回もぜひ皆さま方は自信を失うということなく、前向きの姿勢で進んでいって頂きたい。私はそう思っています。

日本人と全く同じように、ドイツ人の方々、ポーランド人の方々も、同じような逆境にめげることなく立ち向かってこられました。その勇気に対して私は心の底から賞賛の思いを持っております。たくさんの苦しみや困難な状況になっても、けっしてあきらめることなく、自信を失うことなく、前向きに進んでいってほしいと私は考えています。ですから、今現在は非常に難しい辛い状況に直面し、経済的にも様々な問題があると思いますが、悲劇のことだけを思い、それについて心を痛めるというだけではいけません。皆さま方の過去の体験を生かし、自信を維持していただいて、前を向いて、将来を見据えて進んでいっていただきたいと思います。皆様方は、計り知れない心の力をもっておられると思います。
 
さて、現在、私たちは地球の温暖化という問題も抱えています。こうした悲しい出来事や災害は、今後も次から次へと起きてくるものだと思います。そのようなものが起きてくるからには、私たちは心の中でそのようなものに対する準備をしていかなければなりません。経済的な問題であれ、自然災害であれ、そのようなものに対する心の準備をして、そして何かが起きたならば、その状況をより詳しく調べて、それにどのような対処をしていったらよいのかということを、きちんと調べていかなければなりません。そのような生き方を、これからの時代に私たちはしていかなければならないと思います。なぜなら、未来というものには一切のギャランティー(保証)は無いのです。物事というものは常に変化をしていきます。そのような中で、そういった新しい現実に直面する準備をしていかなければならないのです。

この世の中には、工業的に発展し、科学技術も発展し、非常に贅沢な暮らしをしている国々がたくさんあります。しかも、同じ国の中で、贅沢な暮らしをしている人がたくさんいる一方で、貧しさと戦い続けなければならない人も非常にたくさんいます。そのような中で、過去2、3年の間、私は日本を訪問させていただくたびに、日本のご友人や学生たちに会っては「英語の力をぜひ頑張ってつけてください」とお願いをしてまいりました。といいますのも、日本人の方々は教育的にも科学技術のレベルにおいても、非常に素晴らしい力を持っておられるわけです。そこに英語力を備えていただければ、特に若い人が持っておられる可能性の力というものを、海外のより支援を必要としている国に、皆さま方の農業技術、科学技術、教育面における力など、それらをフルに生かしていくことが出来ると思うからなのです。皆さま日本人の方々は、非常に小さい国でありながら、人口密度が非常に高い国となっておられるわけです。つまりその限られた狭い土地を、有効に使うという能力に非常に長けておられると思います。しかし、この世界には、いろいろな国を訪問させていただく私にはよく分かるのですが、まだまだ無駄にされている土地がたくさんあります。そこで、日本の皆さま方の知識と能力を生かして、そのような土地を有効に使う、しかも環境を全く破壊することなく、それらの土地を生かしていくために前進していっていただきたいと願っています。
 
ありがとうございました。(会場拍手)

※岡澤さんが撮影された写真入りの記事は、岡澤慶澄さんのブログ『長谷寺住職日記』にてご覧ください。

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松下弓月 (まつした ゆづき)
>>プロフィールを読む 1980年神奈川県生まれ。福生山宝善院副住職。国際基督教大学卒、青山学院大学大学院修了(文学修士)。2011年1月27日のリニューアルより彼岸寺では編集長をつとめる。