Love trumps hate.

Love trumps hate.

アメリカ大統領選挙が終わりました。まさかの結果に驚かなかった人はいなかったのではないでしょうか。私もアメリカの「コモン・センス」に期待した一人でしたが、予想を反する結果に、今でも信じられない思いでいます。

さて、その選挙後、ミュージシャンのレディ・ガガさんがある言葉を掲げて話題となりました。その言葉は、今回のタイトルにもある「Love trumps hate.」というもの。これは元はヒラリー・クリントン氏陣営の、選挙時の一つのキャッチフレーズとして用いられたものなのだそうです。

ただ英語に馴染みのない人間には意味の取りづらいフレーズで、私は最初、ヒラリーさんがこの言葉を発しているのを聞いて、「トランプは嫌いだ」と言っているのだと勘違いしていました。しかし、この場合の「trumps」というのは、動詞では「打ち負かす」という意味があるようで、「愛は憎しみに勝る」という意味になるのだとか。ヘイトを助長するかのようなトランプ氏を上手く揶揄したよくできたフレーズです。そしてトランプ氏の当選後、「愛は憎しみに勝る」という意味のこの言葉は、「ヘイトをやめよう」というより強烈なメッセージとなっている。レディ・ガガさんの行動からは、そんなことも感じさせられました。

仏教的には、「愛」という言葉は、「渇愛(かつあい)」という人間の根源的な欲求や、自分勝手な執着を表わす言葉として用いられるなど、どちらかと言えばあまり良くないイメージがあります。そのため、ちょっと引っかかることもあるのですが、このメッセージで叫ばれる「Love」はもう少し広い愛、「慈悲」の心と理解すれば、すんなりと受け取れます。「慈悲」とは、誰に対しても分け隔てなく、相手を敬い、思いやる心のこと。人を蔑んだり、見下したり、差別する行動を露わにする「ヘイト」とは、まさに対極にある心と言えるでしょう。

実際、アメリカではトランプ氏の当選後、各地でデモが起こったり、あるいはトランプ氏の言動を免罪符のようにして、「ヘイト」が巻き起こっていると伝えられています。また逆に、トランプ氏を支持した学生が学校で暴力を振るわれるというニュースもあるなど、トランプ氏が「壁」を作ることを声高に謳った選挙だけに、大きな分断が生まれてしまっているようで、アメリカの人間ではなくても、心を痛めずにはおれません。

「ヘイト」とされる行為は、私個人としては、やはりしてはならないことだと思います。しかしながら、「ヘイト」することを完全な悪、「ヘイト」しないことを完全なる善として、正義を振りかざして、「ヘイト」する人を糾弾することにも、全く問題がないこと思えません。してはいけないことはしてはいけないのですが、「ヘイト」する人に怒りや憎しみをぶつけることも、「ヘイト」と根っこの部分ではそうは変わりませんし、さらなる「ヘイト」を生み出すことにもつながりかねません。「ヘイト」という恐ろしい行為に身を染めてしまう人にも、そうせざるを得ない背景が必ずあるはずです。

親鸞聖人の言葉には、「さるべき業縁のもよおせば、いかなるふるまいもすべし」というお言葉があります。条件が整えばどんな恐ろしい行為をしても不思議ではない。私自身もそのような身である、ということを教えてくださる言葉です。この言葉を噛みしめるならば、「ヘイト」は自分自身にも無関係ではありませんし、「ヘイト」という行為に及んでしまう人にも、そうせざるを得ない背景があると、想像をはたらかせる必要があるでしょう。

「慈悲」の心は、まさにそういう心であると思います。憎しみや差別の心よりも、人を敬い思いやる心を持つことが素晴らしいことは、誰でもわかっています。けれど、今はそうできない人もいる。そういう悲しみ・苦しみの中にある人に対しても、その心をまずは受け止めようとする在り方こそ、「慈悲」の心と言えるのではないでしょうか。

そのように考えていくと、「Love trumps hate.」というフレーズも、また少し味わいが変わってくるように思います。「愛は憎しみに勝る」「ヘイトではなく愛を」という意味だけではなく、「ヘイトせざるを得ないトランプ氏(のようなあなた)にも、愛(=慈悲)を」と。「ヘイト」というものを無くしていくためには、遠回りのように感じられるかもしれませんが、このような向き合い方も、これから大切になってくるのではないでしょうか。


日下賢裕 (くさか けんゆう)
>>プロフィールを読む 1979年、石川県生まれ。浄土真宗本願寺派の僧侶、布教使。 広島大学人文学部東洋史学科卒業後、本願寺派の教育機関である中央仏教学院、伝道院にて仏教を学ぶ。 現在は故郷の山中温泉にて、本願寺派の若手僧侶が作るサイト「メリシャカ」や「彼岸寺」との関わりを通して、仏教を外に発信するとともに、地元の人たちに愛されるお寺作りに挑戦中。