"Outside-In"お寺マネジメント

7学期が始まってブログを更新しようと思ったら、システム変更の関係でうまくいかず、ちょっと遅くなってしまった。もうすぐこの彼岸寺のビジュアルも一新されることになるのだが、システム上ではすでにリニューアルされている。

今学期は4つの科目を履修している。前学期は最大の5科目を履修していたので課題も試験も大変だったが、ようやく峠を越えた感じだ。

#Service Business Ventures and Franchising
私はマーケティングとストラテジー専攻だが、「フランチャイジング」という単語に惹かれ、ベンチャービジネス専攻の科目を初めて履修してみた。教授は長年ホテル業界でコンサルティングをしてきたインド人で、フランチャイジングだけでなくホスピタリティという点からもお寺に役立ちそうだ。

#Marketing Strategy
Whartonから来ているジョージデイ教授。自身の著書『Strategy from the Outside In』をテキストにしての講義、かなり面白い。お寺などノンプロフィットの組織運営にも応用しやすいのが嬉しい。

#Gender Diversity and Leadership
ジェンダー系の授業は大学時代を含めてこれまでぜんぜん履修したことがなかったが、自分の世界を広げるためにも試しにとってみた。考えてみれば未だにお寺の世界は今どきの企業などからは信じられないほどの男性社会。だからこそジェンダーに関する課題を意識的に考える機会は重要。

#Managing Complexity.
NASAから来ている教授が、一般的なマネジメントの問題を超えた複雑な問題にどう取り組むかを考えるという講義。文字通りロケットサイエンスの世界に限らず、問題というのは何でも細かく砕いてシンプルな断片にできるというわけではない。インスピレーションというアプリケーションを活用するのだが、これがなかなか自分に合っている。

さて、インドMBA課程ももう残すところ後1学期というところまで来たわけだが、振り返ってみるとここへ来て、自分の中でお寺運営のオリエンテーションが180度転換していることに気がつく。これがブレイクスルーというものか。

ただ、ブレイクスルーといっても急に何かビビっとすごい直感が沸いて世界ががらっと変わるというような単純なものではない。むしろ、論理の小さな微調整を積み重ねて最終的に描かれたモデルが、一見あまり変化がないように見えながら、質的には180度、あるいは360度変わっていた、そんな感じだ。一言で「これがブレイクスルーです」と表現するのは難しい。

今学期の講義で得た積み重ねのひとつとしては、「Outside-in」の考え方だろうか。要約すると、ふつう企業では自分の現在持っているリソースを基礎にして今後の戦略を考えがちだが、それでは最終的に顧客のニーズを満たすプロダクト/サービスを提供できないかもしれませんよ、ということである。自分が得意だから、キャパシティーが余っているから、といってそれをたくさん生産して「これをどうやって売ろうか」といっても、顧客が望んでいなければ売れない。だから、スタート地点で「顧客が本当に何を望んでいるのか」ということを徹底的に意識する必要がある。

教授の理論によれば、顧客の望む価値の方向性には3つある。パフォーマンス、プライス、リレーションシップ。事業を成功させるにはこの3つのすべての点で、ある一定の基準を満たす必要があり、さらに、1つ以上の点でリーダーとならなくてはならない。

私の分析では、お寺は明らかに「リレーションシップ」を重視すべき事業モデルに属する。その点で、昔ながらのお寺が先祖代々の関係を大事にしてきたことは、なかなか理にかなっているのだ。お寺は闇雲に「開く」のではなく、檀家さんとの何代にも渡る長いお付き合いを最優先してしっかりやるべし、ということである。当たり前のことのようだが、神谷町オープンテラスなど「お寺を開く」活動を積極的にやってきた私にとっては、180度の転換といってもいい。

はやく日本のお寺に帰って、勉強したことを実際の現場で使ってみたい。


松本紹圭 (まつもと しょうけい)
>>プロフィールを読む 1979年北海道生まれ。本名、圭介。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。一般社団法人お寺の未来理事。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立し、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。Indian School of BusinessでMBA取得。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出される。著書多数。近著に『お寺の教科書-未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年-』(徳間書店)。