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チベットの新年と麦

チベットの新年と麦


 松の内も明けてお正月ムードもすっかりさめてしまいましたが、皆様、明けましておめでとうございます。

 日本をはなれて外国で年越しを迎えるのは得てしてさびしいものですが、今回はとくに皆と一緒に過ごしたくなり、Twitterのタイムラインを眺めていました。インターネットのおかげで、なんとなく年の瀬の雰囲気を味わったり、親しい人たちと挨拶を交わしたりできるのはありがたいことです。YouTubeで細野晴臣さんがレコード大賞のオープニングで"Smile"を唄っているところNHKのゆく年くる年で、お坊さんが除夜の鐘をついている場面を観られたのもうれしいことでした。

 さて、近代のチベットの暦では日本の旧正月や中国の春節とほぼ同じように暖かくなってくる時期に新年が設けられていますが、いま僕が暮らしているネパールやインド、ブータンなどのヒマラヤ周辺の仏教圏では、チベット暦とは異なり冬至の頃に新年が祝われることが多いようです。ここカトマンズでは、農閑期でカトマンズ盆地に降りてきて特にすることもないので、地元の暦とチベット暦とで新年を二回祝う人々もいるようです。

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テリ村の泉

テリ村の泉


先日、西ネパールのムスタン郡にあるテリという村に行って来ました。交通の要衝であるカクベニ村から少し奥に入った辺りにある小さな集落です。その村のはずれにある小さな寺にしばらく滞在させてもらっていました。この写真の左手の高台の上にあるのがその寺です。このお寺が村からすぐに歩いていける距離にあるのをご覧いただくと、人里から完全に隔絶されたタイプの修行場ではないことが分かると思います。大寺院組織に属することはなく、村人のために祭祀を行ったり、薬を作って処方したりするような昔ながらの密教行者の住むお寺です。

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知られざる流浪の行者の伝統

知られざる流浪の行者の伝統
 僕は今、ネパールのドルポ地方の密教行者の皆さんと協力して、チュウという宗教儀礼の体系に関する文献を保存・継承する活動を行っています。

 このチュウと呼ばれる教えは、11世紀から12世紀にかけて活躍したマチク・ラプドンという女性ヨーガ行者によって創始された教えの体系です。この教えの修行者たちは、大きなでんでん太鼓、金剛鈴、人骨笛などを鳴らしながら、自らの身体を供物に変えて神々や魔物たちに捧げる詞章を歌い上げるという、古代のユーラシア大陸一帯に広まっていたシャーマニズムの供犠とよく似通った儀式を行います。しかし文献を読み解いていくと、そのような儀式のまた異なった一面が浮かび上がってきます。チュウとは、自らの身体や現象世界が実体のない空であるという、般若経典に書かれている通りの見解に基づく究極の布施波羅蜜行の実践であり、インドの後期密教で説かれている高度なヨーガ技法を単純明快に表したものだということが分かってきます。つまりこの教えは、インドからチベットの古代の宗教思想家たちが大乗仏教を伝える際に、それまで原始的な宗教を行ってきた人々に受け入れられやすいように、教義の核心部分を素朴で力強い表現で再構築し直したものなのです。
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佐藤剛裕 (さとう ごうゆう)
>>プロフィールを読む 文化人類学者。1973年生まれ。中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。ネパール国立トリブバン大学ネパール・アジア学センター客員研究員。現在ネパールにて仏教寺院組織に属さない民間宗教文化の調査を行っている。