幸せのプレゼント『ゆうびんやさん おねがいね』より

幸せのプレゼント『ゆうびんやさん おねがいね』より

今回は、ほんわか幸せな気持ちになれる絵本のご紹介です。主人公はコブタくん。おひさまけんに住む、小さな男の子です。

もうすぐコブタくんのおばあちゃんの誕生日。おばあちゃんは遠く離れたあおぞらけんに住んでいます。お母さんにプレゼントのことを聞かれたコブタくんは言いました。「おばあちゃんは、ぼくがぎゅってするとよろこぶよ。ぼく、おもいっきりぎゅうーってしてあげたいな」

そこでコブタくんは、お母さんと一緒に郵便局へ行きました。コブタくんは窓口のイヌさんに、「とおくにすんでいるおばあちゃんを、ぎゅってしてあげたいんです。ゆうびんでとどけてもらえますか?」とお願いしました。イヌさんはしばらく考えてから、「とくべつにやってみましょう」と答えました。

これから先、コブタくんの素敵なプレゼントは、いろいろなひと(動物)を通して運ばれていきます。窓口のイヌさんから郵便を仕分ける係のヤギのおばさん、郵便トラックの運転手のウサギくんとヤマアラシさん、貨物機のクマキャプテン、あおぞらけんの郵便トラックを運転するアオサギさんにキツネくん...。

コブタくんのプレゼントは、運ぶひとみんなを幸せな気持ちにしていきます。ヤギさんはずっとにこにこしながら仕事ができましたし、ウサギくんは思わず笑ってしまいました。内気なアオサギさんは、コブタくんのプレゼントをきっかけに、大好きなキツネくんに自分の気持ちを届けることさえできたのです。

小さなコブタくんのかわいらしい思いやりが、大人たちの心につぎつぎと明るい灯をともしていったのです。

私たちが心のこもったプレゼントを受け取るとき、その気持ちを何よりも嬉しく思うものでしょう。贈るときも、相手への思いやりが、自分の心を暖めてくれることに気づきます。この絵本は、人から人へ伝わっていく暖かな気持ちや、そこに生まれる喜びや幸せを描いています。

いまから2500年前、ブッダガヤーの菩提樹の下で、お釈迦さまは悟りをひらかれました。この世界と人生の真理に目ざめ、ブッダ(目ざめた人)となられたのです。お釈迦さまは、悟った喜びを心ゆくまで味わったのち、あらゆる人の幸せを願う慈しみの心から、伝道の旅に出られました。
お釈迦さまは45年ものあいだ、弟子たちとともにインド各地をめぐり、多くの人々を教え導きました。お釈迦さまが亡くなられてからも、その教えはとぎれることなく伝えられました。いまでは、日本を含めたアジアはもちろん、ヨーロッパやアメリカにも仏教は広がっています。

『スッタニパータ(*)』という古いお経に、「修養と、清らかな行いと、聖なる真理を見ること、安らぎ(ニルヴァーナ)を体得すること、─これがこよなき幸せである」と書かれています。仏さまの教えに沿って正しい生活を送ることで、私たちは真理に目ざめ、安らかに人生を歩むことができる。それが何ものにも替えがたい幸せなのだと、仏教は教えてくれます。

長い年月のうちに、数えきれないほど多くの人々が、仏さまの教えを依りどころとして、人生に喜びと幸せを見いだしてきました。コブタくんのプレゼントを運んだイヌさんやアオサギさんたちのように、仏教が歩んだ道すじには、たくさんの穏やかな笑顔が広がったことでしょう。

気持ちを伝えるのは、それほど簡単なことではありません。思いが届かずに気分が沈んだ経験は、誰にでもあると思います。仏教もまた、私たちのもとへ届くまでには、法難といわれる迫害など、さまざまな困難を経験してきました。

けれども、コブタくんの「ぎゅっ」のように、心から相手を思いやる気持ちは不思議と伝わります。仏教も、ほんとうに人間の幸せを説いた教えだったからこそ、時間も空間も困難をも超えて、人から人へ、心から心へと伝わっていったのです。

伝えることの難しさ、伝わるものの暖かさ、伝わったときの幸せ。そんなことに思いを馳せながら、この絵本を味わってみたいものです。

ところで、イヌさんたちはどうやってコブタくんの「ぎゅっ」を届けたのでしょう?ぜひ絵本をご覧ください。きっとあなたもにっこりするはず。この絵本からのプレゼントです。

*文中の『スッタニパータ』の和訳は、中村元訳『ブッダのことば スッタニパータ』(岩波書店、1984年初版)の58?59ページを参照しました。


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清水智樹 (しみず ともき)
>>プロフィールを読む 1975年愛知県生まれ。真宗大谷派教師。真宗大谷派専超寺衆徒。博士(文学)。DPA(真宗カウンセリング)の研究と実践に取り組む一方で、仏教の社会貢献を支援する団体「祇園精舎」の設立に参画。「Atelier OCEAN」を立ち上げ、アートギギャラリーサイト「Color Balloons」の運営や、絵本の紹介も行う。京都大学文学部卒、同大学院文学研究科修士課程修了、大谷大学大学院文学研究科博士課程満期退学。