「amazonが僧侶をネットで宅配」のほんとうの意味(松本紹圭)

「amazonが僧侶をネットで宅配」のほんとうの意味(松本紹圭)


「アマゾンが『お坊さん』をネットで宅配!?」というニュース。何も驚くことはありません。

amazonはこれまでもいろんなモノやサービスを売ってきましたし、これからその範囲はもっと広がるでしょう。その流れは止められませんし、止めようとしても無意味です。インターネットがスマートフォンやウェアラブルデバイスによって生活どころか人々の価値観にまで深く浸透し、今起きていることはこれからもっとスピードを速めて進んでいくでしょう。それを考えれば、こんなニュースはまだ序の口の序の口、今のふつうの生活の延長線上にある、想像しうる変化にすぎず、大したことではありません。

amazonが売り始めたのは、僧侶そのものではなくて(人身売買はできません)、"法事"という僧侶が提供する多様なサービスの一部です。それが今やコモディティ化(均質化)して参入障壁も高くないと見なされたため、一部の市場において標準化されたサービスが「派遣僧侶」として一律価格でパッケージングされて販売が始まり、その購入がオンラインで便利になっただけのことです。取り立てて新しいことは起こっていません。今の思考で想像できる程度のことは、やがて遠からず必ず起こります。これくらいのことに驚いて、いちいちその是非を議論している暇はないはずです。そんな暇があったら、この次に起こること、次の次に起こることへと想像力を向けて、もっとワクワクしてみませんか。

むしろ、人間がモノ化する社会の流れはこの程度では止まらないでしょう。最近、これからのAI(人工知能)とロボットの劇的な発達によって「今後10年で消える職業」ランキングなど発表されていますが、上記の僧侶派遣のようなコモディティ化したサービスを提供する職業は、最も早くAIロボットにとって代わられるでしょう。「間違いのない儀礼とお経」だけであれば、AIロボットの方が人間よりよっぽど信頼性が高いです。20年後、今度はいよいよ 「amazonが僧侶そのものの販売を開始」するかもしれません。もっともその頃は、僧侶のAIロボットなど買う前に、亡き人を完全に再現した"学習するアンドロイド"のほうが人気が出て、死者と生者の関係性や人間の死生観そのものが大きく変わっているでしょうから、もはや現代の僧侶のあり方を前提にして議論すること自体、あまり意味がありませんが。すでに死後も投稿を続ける人工知能SNS「ETER9」など新たなサービスが生まれてきていますし、死生観の変化はますます加速するでしょう。

では、遠くない将来、僧侶は社会から消えていく運命にあるのか? ある面では、そうです。分かりやすく言えば、僧侶がAIロボットで代用が利く仕事で勝負している限り、10年以内にその役割を終える可能性もあります。"読経マシーン"僧侶ほど、AIロボットによって代用しやすい仕事はないでしょう。AIロボットの進化が人間の僧侶のスペックを超えるということもありますが、それ以前に、AIロボットで代用が利く種類の仕事の価値は劇的に低下し、職業として成り立たなくなると思います。AIの普及によってまず自動運転車の普及によって運転手という職業が消えると言われていますが、AIによる代用に向けてクリアすべき課題の難易度を考えると、もしかしたら運転手より僧侶が消えるほうが速いかもしれません。

しかし、僧侶の仕事はすべてAIロボットで代用が利く仕事でしょうか? 「いいえ!だって、やっぱりお経を読んでもらうお坊さんは、ホンモノの人間でなくちゃ、温かみがないよ」という考えは、残念ながら今後10年で通用しなくなると思います。AIロボットの進化によって人間とロボットの関係はすっかり変わり、近い未来には人間がロボットに温かみを感じることもふつうになるでしょう。その温もりも含めて限りなく人間に近いAIロボットも生まれ、人間とロボットの融合も進み、人間のAIへの依存度はどんどん高まっていきます。膨大なビッグデータとつながったAIが弾き出す予測の精度は極めて高く、その意思決定のプロセスはもはや人間の理解の及ばないブラックボックスであるにもかかわらず、重要な意思決定を最後は占い師に頼る政治家と同じメンタリティで、あるいはそれ以上の依存心で、大多数の人間がAIの下す判断に従って行動するようになるかもしれません。事態が極限まで進めば、改めて「人間とは何か」が真剣に問い直される時代が必ず来ます。

でも、そんな時代だからこそ、僧侶の仕事はすべてAIロボットで代用が利くか?という質問に対しては、やっぱり「いいえ!」なんです。人間には自ら人間というフレームを超えていく=仏になるポテンシャルが一人ひとりに秘められています。AIロボットはその性質上、ディープラーニングなどを駆使してどれほど自ら学習を進めたとしても、認識のフレームそのものを超えることはできません。確かに、ロボットは人間を模倣し尽くした先に人間というフレームにおける最高スペックを実現するかもしれません。しかし、人間のほんとうの凄さは、人間というフレームをはみ出す可能性、人間ではない存在のあり方=仏へとトランスフォームする可能性を持っていることです。もしも僧侶の仕事を、人間が人間を超えていく可能性=仏性を開発することに位置付けるのであれば、それはあらゆる仕事の中でもっともAIロボットに取って代わられる可能性の少ない、人間としてもっとも創造的で、もしかしたら人間に残された最後の仕事となり得ます。

僧侶の方へ。

人工知能研究者の間では、究極に進化したAIを指して"Godlike machine(神のような機械)"と呼ばれています。そして、「人間を滅ぼす可能性があっても、人間はGodlike machineを作るべきか?」という問いを巡り、賛成派の「宇宙派」と反対派の「地球派」の間に大論争が起こっているとか。宇宙派は「人間ごときが宇宙の進化を止めてはいけない。たとえが滅んでも、それを超えていくAIをつくるべき」と主張し、地球派は「人間がもっとも大切だ。人類を滅ぼすようなAIは要らない」と主張します。お寺の存在意義どころか、人類の存在意義が問われる時代がすぐそこにやってきています。

これまでの30年とこれからの30年、お寺を取り巻く環境変化のスピードは、100倍早くなるといっても大袈裟ではないでしょう。短期的には過疎化や少子高齢化など社会構造的な課題の影響も大きいでしょうが、中長期的には「人間とは何か?」「人類の存在意義は?」といった根源的な問いに対して宗教・仏教が応え得るのかが試されています。

僧侶として、AIロボットに代用の利かない、創造的な仕事をしていますか?
寺院の消滅どころではない、人類の消滅という可能性も視野に入れて、未来のビジョンを描いていますか?

未来の住職塾で、お待ちしています。

(未来の住職塾 塾長 松本紹圭)


---

▽ 未来の住職塾 本科 第五期(来年4月開講)
http://www.oteranomirai.or.jp/juku/regular_course/

▽ 未来の住職塾 本科 一日体験教室(来年2月無料開催)
http://www.oteranomirai.or.jp/juku/seminar/pre/


松本紹圭 (まつもと しょうけい)
>>プロフィールを読む 1979年北海道生まれ。本名、圭介。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。一般社団法人お寺の未来理事。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立し、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。Indian School of BusinessでMBA取得。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出される。著書多数。近著に『お寺の教科書-未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年-』(徳間書店)。