世界経済フォーラム体験記1(松本紹圭)

世界経済フォーラム体験記1(松本紹圭)

(写真は一昨年にミャンマーで開かれたYGL meetingの様子です)

1月にスイスのダボスで開かれる世界経済フォーラム2015年次総会(通称:ダボス会議)に参加することになりました。2015年の今年は1月21-24日に開催されます。18日、関空からオランダ経由でチューリッヒへ飛行機で行き、一泊した後、電車でダボスに入ります。19-20日は世界経済フォーラムに併せて開かれるYoung Global Leadersのミーティングがあり、21日からいよいよフォーラム本番が始まります。

世界経済フォーラムは世界中から経済・政治を中心としたリーダーが集い、世界の今日的課題や今後のビジョンについて議論を交わす場です。一年を通じて世界各地でさまざまな分科会が開かれており、私も2013年にYoung Global Leaders(YGL)の一人に選んでいただいて以来いくつかの会議に参加しましたが、ダボスで開かれる年次総会に参加するのは初めてです。年次総会だけは毎年2,000名ほどと席が限られているため、YGLメンバーであっても招待がなければ参加することはできません。YGLの5年の任期中に招待される可能性が1度あるかないか、と言われる狭き門のダボス会議なだけに、今回(理由は分かりませんが)招待していただけたことは、とても幸運なことでした。

参加者リストには経済人・政治家を中心に多様な人たちが名を連ねています。日本からもおよそ100名ほどの参加がありますが、日頃からニュースなどで見聞きする名前ばかりで圧倒されてしまいます。海外も名前を挙げればきりがありませんが、たとえばGoogle会長のエリックシュミット氏とYGLのセッションなどが予定されています。私の好きな小説『アルケミスト』の著者パウロ・コエーリョ氏の名前も参加者リストに見つけました。(コエーリョ氏に「ぜひ会ってお話ししたいです」とメールしたら、「いいね!会場で会おう」と気軽に返事をいただけたのには驚きました)

初めてのスイスですのでワクワクもしますが、日々忙しく一緒に仕事をしている仲間や、2人の子どもの面倒を誰の手も借りず一人で見なければならない妻、日頃からお世話になっているたくさんの人たちの応援のおかげで、一人日本を一週間丸々空けて、はるばるスイスへ行かせてもらうわけです。何かしら成果を持って帰りたい。そして、世界経済フォーラムの標語は"committed to improving the state of the world(世界をより良い状態にすることに貢献する)"ですから、ほんのささやかだとしても、自分も世界に何かしらの貢献を残したいところです。

しかし、自分が何によって世界に貢献できるのか。もちろん、どんなに小さく見える行為であっても、すべては社会とつながっており、それはそのまま世界とつながっているわけで、日々の目の前の仕事も世界への貢献です。でも、広い世界の中の日本というローカル社会の中でも、とりわけローカル色が強い「お寺」という分野で、さらに「未来の住職塾(僧侶向けの教育事業)」というニッチな分野で活動する自分に、何ができるでしょうか。

昨年、全日本仏教会の代表の一人として参加された僧侶・松山大耕さんからは「世界の宗教者も集まっているから、とにかくinter-faith(宗教間)の対話をすることから始めてみたらどうですか」とアドバイスをいただきました。確かに、頭で考えてばかり居ても仕方がない。未来の住職塾でも「まず手を動かすこと、足を使うことが大事。そこから次の景色が見えてくる」と伝えています。その場でのご縁を大切に、いろんな価値観の人と積極的に対話することが今回のひとつの目標です。

でも、やっぱり対話だけでは「貢献」とまでは言えない。世界へ貢献・・・特に宗教の分野で何かできないだろうか?

シンプルに「宗教」というテーマで世界の今置かれた状況を眺めてみると、フランスの風刺画の事件しかり、シリアのイスラム国しかり、本来は平和で安心な社会に貢献するものであるはずの宗教が、結果的にまったく逆のベクトルに働いてしまっていることが大きな課題となっています。経済格差の拡大と並んで、世界で今最も緊急に取り組むべき課題の1つが「宗教をめぐる紛争」だと言えるでしょう。

では、宗教紛争の解決に向けて、できることは何か。一人で扱うには大きすぎる課題です。しかし、少し視点を変えて、未来の住職塾の仲間の顔を思い浮かべてみると、面白いことが見えてきました。自分がフォーラムへ招かれた理由もそこにあるのだと確信します。

未来の住職塾は、それぞれにお寺を預かる住職が地域や宗派を超えて集い、真剣にお寺の課題やビジョンについて語り合い、共にお寺とその地域社会の未来を描く学びの場です。毎年4月に開講する一年の研修プログラムを、2012年に開講してから3年で地域や宗派を問わず計250を超えるお寺の方が受講されました。最終回の寺業計画書発表は、発表者とそのお寺のすべてが込められた真剣勝負。自分の良いところも悪いところもさらけ出して真剣に学び合った仲間だからこそ、卒業後にはお互いの宗派など忘れるほど垣根のない関係が生まれます。と同時に、それぞれのお寺を相互訪問してそのお寺の大切にしている教えや価値観にも触れ合いますので、他宗教理解のよい機会にもなっています。今は卒業した仲間が各地で集い、共通の課題に対して協力した活動が始まっているところです。

伝統仏教界にはこれまでも「宗派組織の壁を超えて、同じ仏教で集い、活動していこう」というかけ声が何度も上がりましたが、組織文化や教義解釈の違いという壁も大きく、宗派を超えた意味のある活動体が生まれることはなかなかありませんでした。しかし、「仏教の教え」という切り口ではなく「お寺組織の運営」という切り口で地域や宗派を超えた共通軸を作ってきた未来の住職塾においては、開講から3年で、これまでの日本仏教界にはありえなかったレベルでサンガ(メンバー)寺院相互の深い理解と信頼の基盤が生まれているのです。

宗教紛争が先鋭化する現代において、これからの宗教世界を構築する上でInter-faith Dialogue(宗教間の対話)が重要です。しかし、これまで日本の宗派仏教がどれほど表面的な対話を重ねても大きな成果を生むことはできなかったように、おそらく対話だけでは異なる宗教の人たちが互いに深い理解と信頼を作ることは難しいのもまた事実。宗教者であろうとなかろうと、人は同じ釜のメシを食べて同じ苦労を共にしてこそ、ほんとうに深い関係が生まれるものです。

つまり、未来の住職塾をより広い視点から見ると、異なる宗教組織の人が強い危機感を持ちながら"これからの宗教組織のあり方を描く"という共通テーマのもとに集って共通言語を獲得する学びの場であり、力を合わせて課題に取り組む共汗体験を持った異宗教間リーダーのコミュニティであるわけです。

日本仏教において生まれたこのようなアプローチが、きっと同じように世界において新しい社会と宗教のビジョンを作ることにも、何かしらの示唆をもたらすのではないでしょうか。もちろん、宗派の壁以上に、宗教の壁を超えるのは難しい面もあるでしょう。でも、すでに日本において未来の住職塾という先行事例もあることですし、議論する機は熟しています。卒業生の皆さんなら、きっちこのことに共感してくれると思います。(→サイトに卒業生インタビューも載っていますので、ぜひご覧ください)

スーツケースには未来の住職塾のパンフレットと『お寺の教科書』も詰め込みました。事務局のみんな、サンガ寺院の皆さん、未来の住職塾を代表してダボスへ行ってきます! 帰国したらすぐに、今度は「未来の住職塾本科 1日体験教室」で全国行脚の旅が待っています。できるだけ滞在中にも中間報告がんばります。

松本紹圭 (まつもと しょうけい)
>>プロフィールを読む 1979年北海道生まれ。本名、圭介。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。一般社団法人お寺の未来理事。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立し、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。Indian School of BusinessでMBA取得。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leaderに選出される。著書多数。近著に『お寺の教科書-未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年-』(徳間書店)。