お寺がベンチャー支援? - 過疎地のお寺とジャム屋の物語

お寺がベンチャー支援? - 過疎地のお寺とジャム屋の物語

先日出張の途中に、未来の住職塾の卒業生、松嶋智明(まつしまちあき)さんのお寺を訪れました。
松嶋さんのお寺は、瀬戸内海に浮かぶ周防大島(山口県)にある荘厳寺(浄土真宗本願寺派)というお寺です。

松嶋さんは副住職を務められながら、花音という音楽ユニットでも活躍されています。

そして、もう一つの顔としては瀬戸内ジャムズガーデンという、島の特産物を活かしたジャム屋を経営されているベンチャー企業経営者でもあります。
結婚時には専業主婦になると決められていたとのことですが、それが信じられないような多方面にわたるご活躍です。


20141016_140557(修正).jpg
(右が松嶋智明さん。棚に並んでいるのが旬の果物を使った無添加のジャム)

さて、瀬戸内ジャムズガーデンは夫の匡史(ただし)さんと始められ、日本におけるコンフィチュール作りの草分け的存在でもあります。

瀬戸内ジャムズガーデンが位置する周防大島は高齢化率が日本でNo.1の過疎地域でもあります。そのような環境下で成功をおさめているジャムズガーデンは2013年の新書大賞を受賞した『里山資本主義』(藻谷浩介・NHK広島取材班)でも大きく取り上げられ、注目度は急上昇中です。

ジャムズガーデンのジャムは島で採れる有機栽培の果物を使って無添加で作られています。とても美味しいのでぜひみなさんもご賞味を!

20141016_134900(修正).jpg
(瀬戸内ジャムズガーデンの外観)

さて、ジャムズガーデンの創業ストーリーは、ご夫妻が2001年に行ったパリの新婚旅行にさかのぼります。現在に至る経緯は、この書籍やホームページ等、色々なところで書かれていますので詳細はそちらに譲ります。
今回は、「実はジャムズガーデンの成功の陰にはお寺(荘厳寺)の存在があった」という点に着目し、他では書かれない秘話をお伝えします!


【秘話1:地域におけるお寺の信頼が創業期を支えた!】
・新婚旅行後に匡史さんが書いた事業計画を、智明さんはすぐに父親でもある住職に転送。住職はすぐに多数の友人に事業計画を転送したため、プラス・マイナスの様々なアドバイスが集まり始め、発案者の匡史さんは創業に向けて退路が断たれていきました。

・その後、ジャムズガーデンの土地を住職が購入。絶対に売らないと言われていた地権者でしたが、住職の顔で土地購入に成功し、松嶋さん夫妻はその土地を借りて事業を開始しました。ジャムズガーデンは当初数年間は試し販売や夏季限定オープンのみで、本格的な通年での事業化はスタートしてから4年目になります。
創業期で売上が少ない時期に如何に固定費をカバーすることはベンチャーにとって死活問題です。一本数百円のジャム販売という業態では、損益分岐に到達するのはかなり遠い事業モデルでもあります。通常のベンチャーと比べても長い丸4年というインキュベーション期間において、賃料負担を限りなく低減できたことはその後のジャムズガーデンの発展に大きくプラスとなったと考えられます。

・そして、お寺の地縁と地域での信頼を活かし、ジャムの原料となる果物が口コミ(お寺がジャム屋を始めたんだって!)で集まり始めました。これがきっかけとなり、その後は島内の様々な農家から話が持ち込まれるようになりました。


【秘話2:お寺をジャムズガーデンのPRの場としてフル活用!】
・智明さんは歌の講演の際、ジャム販売をすることは極力控えようとしていました。しかし、匡史さんの懇願もあり、出張演奏先のお寺や檀家さんからの「ジャムを売ってほしい」というリクエストもあり、歌の際にジャムも売り始めました。

・今では荘厳寺への団体でのお参りも増え、お寺でのジャム出張販売も実施するとともに、団体客に対してジャムズガーデンの商品を使っておもてなしする等、ジャムを積極的にアピールしています。

・また、ジャムズガーデンへのジャム販売関係の視察が増え、その講演や説明会にお寺の本堂を使うことも増えています。


以上をふまえると、お寺の地域での信用力と資本がなかったら、ジャムズガーデンの姿は今と変わっていたかもしれません。お寺発ベンチャーではありませんが、お寺が密接にかかわったベンチャー支援と言えます。
荘厳寺とジャムズガーデンのシナジーにおいて、ジャムズガーデンがお寺にプラスの経済的影響を及ぼすのは限定的です。むしろお寺がジャムズガーデンに経済的便益をもたらしている側面が大きいと言えます。

そのような中でお寺にとって、娘さんとその旦那さんという家族を助ける以上のどのような意義があるのでしょうか。

私見ですが、お寺と関わりのあるお店が地域産品を積極的に扱い、Iターン者の支援にも積極的であるということは、長い目で見た時に巡り巡ってお寺に返ってくるものも大きいと考えます。島の最重要課題にドンピシャです。
特に荘厳寺は檀家さんの数が多いわけではありませんし、過疎化が進む周防大島のどのお寺も生き残りが厳しい状況です。
厳しい見方をすれば、どのお寺が最後まで生き残るかという過程に突入している中で、ジャムズガーデンの存在があることで、地域が荘厳寺をバックアップする力も増すと思われます。
過疎地域にあるお寺の生き残りの方策として、地域の社会的リソースとつながり、新しい価値の創出を通じて地域の課題解決に貢献し、地域に不可欠なお寺となって最終的に生き残るという方向性が考えられます。

今回の事例で見えてくる、地域のベンチャーを支援するためにお寺が貢献できるポイントは2つです。


【ポイント1:ご縁を活かし、何かをしたい人に信頼を供与して新しい価値の創造をサポートする】
お寺には何世代にもわたって培ってきた地域社会とのご縁の厚みがある。
異質なものがつながるところに新たな価値は創造されやすく、お寺ができるのは才能と思いをつなぐこと。
地域で何かをしたい人と、お寺の持つ地域社会のご縁をつなぎ、社会的な信用を供与してあげることがお寺にはできる。


【ポイント2:お寺の長い時間軸を活かし、気長にインキュベーションを待つ】
機が熟すのを気長に待つことができるのはお寺の強み。資本の論理では切り捨てられる可能性があるものを、将来につなげることができる。


地域の活性化にお寺が寄与できる部分は微々たるものです。しかし、地域と共倒れになる前にできることをやりつくすのは、地域に育まれ地域とともに歩んできたお寺には大切な姿勢だと思います。
全国各地域で地方創生が叫ばれる世の中ですが、お寺も名脇役として貢献できれば、地域に求められ続けるお寺として次代に息吹を保っていけるかもしれません。

今回のジャムズガーデンの事例以外にも全国には様々な事例があるはずです。これからも機会があるごとに、地域の活性化に貢献するお寺の事例を発掘していきたいと思います。


井出悦郎 (いでえつろう)
>>プロフィールを読む 1979年山形県生まれ、未来の住職塾にて講師、全体プログラム設計、お寺360度診断開発等を担当。著書に『お寺の教科書』(徳間書店)。