【番外編】仏を描かずして仏を描く人/瑞泉寺 副住職 中川龍学さん

「仏を描かずして仏を描く人」中川龍学さんインタビューの番外編です。今回は"剃髪"が多感な少年に与える影響について、いつも冷静なyuzukiさんにしては珍しく熱く語るところからスタート。そして、インタビューの中で中川さんが言われた「微生物の視点」という言葉から仏教の世界観について、最後はなぜか「前世はあるかないか」にまで話は広がっていきました。番外編も、だんだんざっくばらんになってきましたので、気楽にお読みいただければと思います。(中川さんのインタビューはこちら→

  • 杉本:中川さんは、修行に行く前に「髪の毛を剃るのが嫌で行きたくなかった」とおっしゃっていましたが、松下さんも小さいときは髪を剃るのが嫌でしたか?
  • yuzuki:今は坊主頭ですが、お坊さんになるまではずっと長髪でした。小さい頃からなんとなく短髪は嫌だったんですが、今振り返ればトラウマだったんだと思います。4?5歳の頃に小坊主のかっこうに丸坊主で撮った写真があるんですよ。マルコメくんみたいに(笑)。
  • マルコメくん(笑)。
  • 坊主頭への拒否感をはっきり感じたのは高校に入学した時です。中学でやっていたバスケ部に入ろうとしたら、なぜか新入生は坊主頭が必須で。それだけはありえない!と思って入部しなかったんですが、これってきっとそのマルコメくん写真がトラウマだったせいですね。24歳で得度した時に剃髪して、髪の長さなんてたいしたことじゃなかったのがわかりましたけど。
  • うーん、多感な少年にとって髪型は重要だったんでしょうね。そう考えるとやはり、剃髪=出家の意味について改めて考えさせられます。
  • そうですね。服装と髪型って、一番思春期に気になるところですもんね。
  • ほんとですよね。中川さんの場合は絵を描くのが好きで、漫画家になりたい少年だったそうですし。お坊さんになることを受け入れられていないと、なおさら坊主頭もつらかったのかもしれません。
  • 私はお坊さんになると決めてはじめて坊主頭にしましたけど、中川さんは高校2年生のときに得度されてますよね。
  • ええ。
  • 共学だったら好きな子もいらっしゃんたんじゃないかとか勝手に色々想像して、感情移入してしまいました。
  • やけに共感するとこがあるようですね(笑)。
  • お寺に生まれて跡継ぎになるのが嫌とかって言いますけど、最初はもっと小さなところから始まるんですよ。髪型とかクリスマスとか。
  • そこまでディテールを想像したことがなかったなぁ。これから「お坊さんになるのいやだった」とおっしゃる方がいたら、もっと心をこめて話しを聴かなくては......。
  • 子供にとって、家庭が原因で友達と同じことができないのってやっぱり悲しいことですよね。中川さんは、幼稚園のときにお祖母さんがご病気になられて東京から京都のお寺に帰ってこられたそうですね。さらっと「僕がお寺を継ぐことは大前提」で、小学3年生に得度、高校2年生には修行に行かれたとおっしゃっていますが、きっと色々葛藤があったんじゃないかな、と思いました。
  • いったんはお寺から離れたいと思って社会人にもなられていますものね。でも、お寺に戻られてから、自分なりの目線で仏教の教えをまっすぐに見ていらっしゃって。仏像をイラストレーターさんらしい視点で見ておられたり、お釈迦さんの教えを「微生物の視線」とおっしゃったり。
  • 微生物の視点にはすごく納得しましたね。
  • 究極的には、人間なんて滅びてもいいのかも、とおっしゃったときはビックリしました。
  • 宗教って、一般的には人の苦しみや悲しみに答えるべきものという捉え方をされていますが、それってごく一部の面だけしか見ていない捉え方なんです。たとえばチベットの仏教徒はどんなに小さな虫もけして殺したりしないんですね。なぜかというと、生まれ変わりを繰り返すなかで、一度は自分の母親だったかもしれないと考えるからです。普通は、友達とか家族とか親しい人だけに持つ共感を、他の動物や植物や虫にまで広げるんですね。そうすると人間にとって良いことであっても、それは他の生命にとっては悪いことにだったりするじゃないですか。
  • ええ。人間だけのことを考えても、ほかの動物や環境にとって悪いことなら結局は人間にとっても良くないことになりますよね。こう言うと、なんかエコみたいな話に聞こえちゃいますけども。
  • 杉本さんはどういうところに共感しましたか?
  • リクルートで働いておられたり、イラストの仕事をされているせいか、たとえば布教とマーケティングの関係についてお話されたり、阿修羅のことを「さんざん遊んでたコギャルが改心した姿」と言われたり。他のお坊さんにない、独特のセンスでお話されていましたよね。そういうところがとっても新鮮で、なおかつパッとイメージしやすかったです。真正面から「お釈迦様は...」と言われると、いきなりは受け止めきれないこともあるので。
  • いやー、耳が痛いですねぇ(笑)。最近思うんですが、仏教の考える世界観と一般社会の世界観って、ごく普通に考えるよりもずっと距離が離れてると思うんですよ。なにせ、あのお釈迦様ですらはじめは理解してもらうことを断念したっていうんですから。
  • お釈迦さまが仏教を説かれたときも、当時の一般社会と仏教の世界観にギャップがあったのではないかと思いますが、今は今でまた大きなギャップがあるわけですよね。
  • むしろ今のほうがギャップが大きい気がしますね。仏教の輪廻の輪から抜け出そうっていう考え方は、輪廻っていう世界観があってはじめて成り立ちますからねー。誰も生まれ変わりなんて信じていなかったら、そこから抜け出すもなにもないですし。杉本さんは生まれ変わりとか信じられますか?
  • 前に、前世が見える人っていう人と知り合って
  • おお!
  • 聞いてみたんですよ。私の前世について。そしたら「世の中には、知ったほうがいいことと知らないままがいいことがある」って言われちゃって(笑)。前世、あるのかもしれない......と、かえって気になってしまいました。でも、生まれ変わりはあるほうが楽しみな気がしますね。
  • それは気になりますねぇ(笑)。私は前世を見てもらったりしたことはないのですが、以前にラジオ番組の前世占いで辛酸なめ子さんが「人種差別していた白人」だったと言われたりしていておかしかったです。
  • あはは。でも、前世や生まれ変わりという考え方を受け入れられる人は意外と多いんじゃないかな。
  • ですかね? 仏教でも輪廻というのは基本的な考え方ですが、そういうリサイクル式のものとは違うんですよね。いわゆる魂と呼ばれるような永遠不滅のものがあって、それが貴族になったり、人種差別主義者になったり、サッカー選手になったりして生まれ変わるっていう。仏教ではあくまで永遠不滅のものはないという立場なので。
  • あー、具体的なのはあやしいですよね。でも、きっと性格とか癖って、引き継がれてるんじゃないかなぁと。こういうところ直しておかないと、次に生まれ変わっても同じことしちゃうぞ、とかなんとなく考えたりすることはありますよ。日本に生れ育つと、なんとなくそういう考え方が染みついてる気がするんです。
  • 癖とか性格ですかー。引き継ぎたくないものばかり引き継いでしまいそうです(笑)。どうせなら知恵とか経験値とかにしてくれれば良いのに!
  • あはは。でも、そううまくいかないのが人間の世界のおもしろいところなのかな、とも思います。


杉本恭子 (すぎもと きょうこ)
>>プロフィールを読む 大阪生まれ東京経由京都在住のライター。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒業。お寺取材を経験するうちに「お坊さん」に興味を持ちインタビューを始める。