BGMがない映画。
この作品を読んで私が受けた印象です。
お話としては、スッドーダナ王の息子であるブッダ、その子のラーフラ、そしてティッサ・メッテイヤの親子三代の物語なのですが、このお話を仏典と思って読むと痛い目にあいます。
だって、このお話の中では、稲作を広めたのはヤショダラの功績であり、ラーフラは子供までこさえてしまっているのですから。
じゃあ仏典を基にしたフィクションなのかと言われると、それも違うような気が。文芸賞受賞時には小説家の保坂和志さんは選評で、「この作品がブッダの実話に材をとったかどうかということは、文章の強度・密度をみれば一目瞭然で、そんなことと別次元にある。」とあり、まさに言い当て妙。
そうなんです。フィクションでもなく、ノンフィクションでもなく、それを論じることすら正しくないという感じなのです、まさに。
特筆すべきはその描写力で、とにかく捉えどころがない作品であるのに、圧倒的な描写力でもって読者を説得せしめる力があるのです。
よく「風景を切り抜いたような」という例えを耳にすることがありますが、この作品は「動く画」が見えるのです。ゆっくりと、静かな動きで、かつ鮮明で大胆に描かれる自然の描写に、匂いや音や気温など、そこに書かれていない雰囲気まで感じることができました。
例えば「スズメバチのふくれた腹」のくだりを読めば、ブンという重た気な羽音が聞こえて来ます。「繊維の一本一本がはっきりと目に見え」る日差しですらガラス欠片のような微かな音を立てる。こんなささやかな音をかき消すBGMなんて、必要なし。
しかし、ではこの説得力を持ってして何を説得しているのかと問われると、それすらも捉えることができないのです。
ところで、なぜティッサ・メッテイヤがラーフラの子供として登場するのでしょう?(本来はブッダに質問する学生として登場する)スッタニパータを読んだら、彼が選ばれた理由が分かるかもしれません…。
text by まるこ
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