2010年7月15日
拝、ボーズ!! 収録風景
FMくらしきにて『拝、ボーズ!!』収録風景(右は桂米裕さん)。
FMくらしきの人気法話バラエティ番組『拝、ボーズ』のお坊さん、天野こうゆうさんインタビュー後編です。やんちゃだった少年時代、超バンカラな高野山高校時代をへて、お寺に戻った天野さんは24歳という若さで先代住職である祖父を亡くされています。でも、おめでたいはずの住職就任(晋山)を前にして、降りかかったのは思いもよらぬ困難ばかり。『拝、ボーズ!!』は、言葉ではいいつくせない苦しみの時を乗り越えた天野さんが、地面を蹴って立つようにして始められたことのように思えてなりませんでした。 また、インタビューを通して強く印象に残ったのは、天野さんが立ち止まりうずくまる瞬間にかならず手をさしのべ、言葉をかけるお坊さんたちがいたこと。「もし、誰もの心に仏が在るというのが本当なら、こういうことなのかもしれない」なんて気持ちになったりもしました(前編はこちら)。

災難続きだった住職生活のはじまり

――布教師の講習に通いながら、ご住職としてもスタートされて。

 
高蔵寺本堂
天野さんが毎朝欠かさずお勤めをする本堂
 はい。祖父の三回忌が終わったら晋山式をと言われていたのですが、ちょうどその年に阪神大震災とサリン事件が起きて。しかも、親戚内での揉めごとまで重なってずいぶんと苦労した時期がありました。住職になって、いろんな体制を立て直そうと張り切っていたのですが、若さゆえ、白黒をはっきりしなくてはという焦りが周囲に歪みを呼びました。それがいろんな人に飛び火して......。晋山式も、結婚も決まっていて、しかも地震で客殿が傾いてしまって改修事業もしなければいけない。僕自身は「大変だなぁ」と客観的に物事を見ているつもりでいたのですが、気がついたらストレスで胃に穴が空いていました。

――いっぺんにいろんなことが降りかかってきて......。

 本当なら、大歓迎されて住職になる予定だったのに、問題ばかりが起きてくるというような状況でした。そんなときに先輩の和尚さんが「揉めている相手のことを思って、毎日拝むときに一回でも『今はともかく、これまでありがとう』と言ってみなさい」とおっしゃったんです。そう言われても、トラブルになっている相手に対して「ありがとう」とはなかなか言えないのですが、先輩の言葉がどうしても頭をかすめるから、短くても「ありがと」と言うようにすると、行が終わった後が妙にさわやかでね。

 すると不思議なもので、「病気が治った」「問題が解決した」と祈願しに来る人が増え始めました。親戚との和解も成立しましたし、檀家さんたちも「住職もがんばってるじゃないか」と言ってくれるようになってね。改修事業も、法隆寺の宮大工・小川三夫さんに新築をお願いできることになりましたし、法話の師匠にお会いしたのもその時期で。全部が「せーの」でいっぺんに起きました。ほんと、生きていたらなんとかなると思いましたね。

前代未聞のラジオ番組『拝、ボーズ!!』

――FMくらしき『拝、ボーズ!!』はいつ始まったんですか?

 平成13年頃ですね。始めるときはすごく勇気がいりました。むちゃくちゃな状況が続いてもうズタボロでしたから。「もう失うものはないから怖いものはない」とか言いますけど、一回怖いものを見てしまうと怖いものだらけですよ。ただ、魂をガツンとぶつけてくる人を見ぬけるようにはなりましたね。

 はじめは、辻説法をやろうと思っていたんです。何かやって、聞きに来てくれる人を相手に話したい一心で。誰かゲストを呼びたいと思っていたときに、現れたのが桂米裕さんです。企画を考えていると言ったら、米裕さんは一蹴ですよ。「あきまへんあきまへん。私は月に一回落語会やってましたけど人を集めるってどれだけ大変か。電波に乗せなはれ」ってね。

 


小林啓子さんとの『うたかたり』

小林啓子さんの歌と天野さんの法話がコラボする『うたかたり』
 でも、電波に乗せるにはスポンサーが必要でしょう? どうしようかと思っていたら、カメラマンだった父と長年おつきあいのあった葬祭式場のいのうえエヴァホールさんが引き受けてくれたんです。そこの社長に「おもろいやんか、葬儀屋とお坊さんのコラボなんて」と言われて、「あぁ、それは禁断の扉やぁ」とハッとしたんですけど、やはり和尚さんたちから非難轟々でしたね。漫才じゃないか、葬儀屋と組むのはどうなんだ、とか。ワンクール持てばいいだろうと言われていたんですが、今年の秋で10周年を迎える長寿番組になりました(笑)。

――桂米裕さんとは以前からおつきあいがあったんですか。

 いや、まったく。同じ本山布教師ではあっても、むしろ相反する流派にいましたから。彼は人間国宝・桂米朝さんのお弟子として鳴り物入りで高野山に来て、あの話術で高野布教の流れを変えた人でした。僕は、むしろそれに反発して「あいつだけは認めたらあかん」と(笑)。かつて、僕と米裕さんの間にあった壁は、ベルリンの壁より厚かったですよ。最近になって、「なんで僕と組んだんや?」と聞いたら、「いやぁ、僕の経験したことない人生経験をしているから面白かったんや」と。彼もすごい苦労人なんだけどね。

目の前の問題に向き合う和尚さんに

――こうゆうさんのなりたいお坊さんって、どんなお坊さんですか?

 
柄香炉
使い込まれていることがひと目でわかる柄香炉
 僕は、両手を広げた範囲に、正面に立ってくださったことに関してはやろうと思っています。そして、目の前に出てきた問題に向き合う和尚さんでありたい、と。かなりの自信と信心がないと「私が拝むから治します」「悩みをなんとかいたしましょう」とは言えませんよね。

 真言宗に関しては、牛が逃げても、指輪を失くしても、嫁さんが浮気しても加持祈祷をお願いされます。そんな下世話なことまで? と思うけれども、案外お大師さんの頃って、そういうものだったんじゃないかな。この人に頼めばなんとかなるというのが加持祈祷だから。しかも、安心させると同時に、成就させないといけない。加持祈祷ってね、魔法みたいに言われるけれども、気づきと赦しと、ちょっとしたスミマセンの気持ちをうまく調和させていくものなんじゃないかなと思いますね。


坊主めくりアンケート



1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。

Oldies全般、特にサムクック。日本なら原田郁子ちゃんと日出克さん、そして小林啓子さん。アルバムは自分が手がけた『高野山への道/サントラ盤』と『うたかたりvol.1』。

2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。

不動はアメグラ(『アメリカン・グラフィティ』)ですが、『恋しくて』のエンディングと『世にも不思議なアメージングストーリー/幽霊列車』のお爺さんが孫に別れを告げる場面。

3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。

入門・真言密教の常識-弘法大師のおしえをどう生かすか/田中千秋著 
横山宏Ma.K.モデリングブック/横山宏

4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?

プロレス。その他、採点スポーツ以外は何でも観戦します。野球をしていましたが、今はしてません。

5)好きな料理・食べ物はなんですか?

ビールがおいしく感じられるもの全て。人も会話も含む。

6)趣味・特技があれば教えてください。

何でも例えて話せる。絵や造形も得意。

7)苦手だなぁと思われることはなんですか?

ラリルレロの発音。

8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。

ファーストクラスに乗れるならどこでも。

9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。

テキ屋さん。

10)尊敬している人がいれば教えてください。

尊敬が最高最深の単位なら『お大師さま』

11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?

高野山高校宗教行道部。法要一式の執行から幼児布教までを実践で学ぶクラブ。

12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。

喫茶店主任、宿坊給仕、バーテン、土木行、居酒屋、プラモデルのフィニッシャー、プロレス興行補佐、デザイナー助手など多種多様。

13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。

『拝、ボーズ!!』のパーソナリティ。いつも辞めたいと思ってます。

14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?

境界を感じないので、いつも(ぜんぶ)「遊んでる」感覚。だからいつも休日。

15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?

いつもと同じだと思います。

16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。

他の追随を許さず、完膚無きまでに、淡々と

17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?

明治排仏毀釈で闘っていた。その前はドイツ人としてビールを飲んでいた。
また時代の最先端に生まれ変わりたい。そして真言行者でいたい。


18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)

「坊主と先生という呼び方に抵抗ありませんか?私は「和尚さん」と呼ばれるのが好きです。貴師はいかがでしょうか?」

19)前のお坊さんからの質問です。「坊さんのハゲ頭と剃頭は、やっぱり違うと思いますか。」

先日、小学生と本気で語り合いましたね。彼らは同じだと言いきります。私は違うと反論しました。すると頭頂部が寂しくなってきた先輩和尚が「同じということにしといてくれ」と苦笑い。ということで「同じ」です。

プロフィール

天野高雄/あまのこうゆう
ようまいり.com
昭和43年6月7日生まれ。15歳の時、高野山に入る。祖父の後を継ぎ、平成7年3月に高蔵寺晋山。住職を勤めながら、近県を中心に布教活動を展開。寺院だけではなく、団体、学校、企業などでも講演を精力的に展開。自坊では寺報を制作配付、「明るく、わかりやすく...」をモットーにウェブサイトや法話会、各種行事を季節ごとに開催、特に月2回の子供を中心ごとした寺子屋を開校し、注目を集めている。また、画家として仏画を制作。毎年各地で個展を開催し、目で見る法話として喜ばれている。平成13年よりラジオのパーソナリティーとして、新しい法話の可能性を示し、ギャラクシー賞を受賞した。高蔵寺伽藍復興の為、根本道場再現の為、法を説くことに全力を注ぐ。

医王山 持明院 高蔵寺(いおうざん じみょういん こうぞうじ)
http://www.kozoji.jp/
承応3年(1654)開山。開祖は海誉上人。本堂「瑠璃光殿」の中に安置されている本尊は、秘仏とされている薬師如来。本堂中心には護摩壇があり、黒く煤けた堂内は信仰の歴史を物語っている。客殿「施薬殿」は平成十七年に完成。法隆寺宮建築の伝統を継ぐ小川三夫棟梁が手がけた。堂は持仏として大日如来、不動明王、弘法大師が祀られる。施薬殿は、主に法話会、寺子屋、勉強会、法事などに使用される。


天野こうゆうさんの活動

拝、ボーズ!!
http://www.haibozu.com/
FMくらしき(82.8MHz、倉敷エリアのみ)で毎週金曜日11:30~12:00(再放送火曜日19:00~)に放送している『法話バラエティ番組』。法事についてのあれこれ、身にしみる仏さまの話、お坊さんの素顔などなどをわかりやすく親しみやすく紹介。ポッドキャストでも配信している。パーソナリティは、、天野こうゆうさん、桂米裕さん。ギャラクシー賞受賞。

うたかたり
http://www.utakatari.com/
天野こうゆうさんが、フォークシンガー・小林啓子さんとともに、歌とお話で仏教説話をわかりやすく説き、今を生きる人への「心のみちしるべ」を示す新感覚ライブイベント。寺院のみならず、カフェやギャラリー、ライブハウスなどでも精力的に活動する。つい先日、『うたかたり』から生まれたオリジナル法話フォークソングをCDとして発売。

こうぞうじ寺子屋
小学生を対象に、毎月第2、4土曜日朝7時から開く寺子屋。読経、境内の掃除、坐禅、天野こうゆうさんの法話などを行う。会費や入会料等は無料、入退校は自由。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.higan.net/apps/mt-tb.cgi/3786

コメント (2)

susukihisako:

今回朝日新聞に掲載されていた すぎもとようこさんの記事を読み 僧侶も 書かれているような方ばかりじゃないと、思うのを伝えたくて一筆と 思いました。
我が家は浄土宗ですが 檀家寺です。
主人がなくなったときは我が家の台所事情も分からずに親切丁寧に49日まではお参りして頂きましたが、いざ我が家のお布施の額が少ないなど言われ 困りお付き合いを減少せざるを得ない状況で。このような僧侶も居ると伝えたかったのです。
僧侶もさまざまですよ。 先祖のお墓も整理をしようかと考えている人間もいるのです。

susukihisako さま

コメントありがとうございます。

susukihisakoさまのおっしゃる通りだと思います。
私も寡聞ながら、いろんな僧侶の方がおられることは耳にしております。そして、檀家制度のなかで、僧侶や仏教に不信感を抱いておられる方がいて、少なからず苦しい思いをされているということも、存じております。親しい人の死にのぞんで、共に死を悼んでくれるはずの僧侶からいやな思いをさせられる。きっと、susukihisakoさまも、とてもとてもつらい気持ちになられたのではないかと思います。

そういった状況について、批判をされている方もまたおられます。良くないと思われる状況に、批判をして改善を求めることも大切なお仕事だと思います。

ただ、私がお会いしているような、良いお坊さん・がんばっておられるお坊さんがおられることもまた事実です。すべての僧侶の方がすばらしい方だとは思いませんが、良い方がおられることをお伝えするのも大切な仕事だと思いますし、私はそちらの方を受け持ちたいと思っているのです。

批判してものごとを良くすることも必要ですが、良い側面をきちんと見て行くことで「ああ、このようなお坊さんでいよう」と思ってくださる僧侶の方が増えることもあるかおしれません。甘い考えかもしれませんが、私はそのように望んでおります。

ときどき「あなたはよいお坊さんしか見ていない」とお小言をちょうだいすることがあります。たしかにそうだと思います。でも、それが今の私がいただいているご縁ですので、そのなかでがんばってみたいと思います。

それが、結果的によいお坊さんを増やすひとつの方法になるのではないか。今はそのような気持ちでおります。また、お気持ちが向くことがありましたら、こちらのサイトのお坊さんの記事も読んでいただけるとうれしいです。

(天野こうゆうさんのインタビューの内容とは直接関係ないので、こうゆうさんごめんなさい)

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

「このお寺にはどんなお坊さんがいるんだろう?」と思ったこと、ありませんか? お坊さんに会うことは、お寺と縁を結ぶこと。お寺のなかでお坊さんが考えていることをお伝えすることで、もう「観光」では物足りない、お寺や仏教をもっと知りたくなったあなたに、お寺との縁の結び方をご提案します(→はじめに)。
杉本恭子
大阪生まれ。水瓶座、B型。東京で5年間を過ごし「東京は山が見えない」と学生時代を過ごした盆地・京都に戻る。大学寮で「寮を開く」という名目でカフェ・イベントを開催していた経験からお寺の動きに興味を持つ。現在は、京都をテーマにした雑誌などで取材・執筆を行うライター。ご連絡・お仕事依頼はこちらまで。 (プロフィール写真撮影:近藤宏樹)
地図作成協力
マップデザイン研究室
お坊さん求む!
坊主めくりでは、インタビューリクエストを募集しております。気になるお坊さん、素敵なお坊さんをご存じの方は、募集要項をご覧の上「info@higan.net」までご連絡ください。みなさまのリクエストをお待ちしております!
目次