
嵐のように過ぎた30代、40代を過ごした後、仕事を辞めた佐々木さんご夫妻は"お寺を活動の基盤"としてスタートを切り、新たな試みのために奔走する日々を送ることになりました。でも、境内のギャラリーカフェ『おてらハウス』がオープンして今年で4年目に入り、改めてそれぞれの位置づけを確認する時期が来ているそうです。「あまり前向きなことが言えなくて申し訳ない」と佐々木さん。いま現在のの思いをそのまま率直にお話してくださいました。(前回のインタビューはこちら)
境内のギャラリーカフェ『おてらハウス』
佐々木:『おてらハウス』の構想は、二人が仕事を辞める前から考えていました。京都には、在家から得度をされた真宗大谷派の女性僧侶がされている、"お店がお寺"というコンセプトの『彌光庵』という精進料理やお酒を出す店があって。そこには、宗派を超えてお坊さんも来るし、外国人やアーティストなどいろんな人が出入りしていて。僕らもそういう場所を作りたいなと思ったんですね。
美也子:庵主さんがお坊さんで、お店の方もお寺の出身だったこともあって、お寺のお嫁さんの集まる会とはまた違って、自由な感じでお寺についていろんな思いや考えを交換できるんです。
佐々木:住職だけをするようになりましたし、法事や月参りなどのお寺の行事のほかにプラスして何かやりたい、またそれが収益事業としても成り立てばいいなと考えて。個人的にもアートが好きでしたし、檀家さんとの関係でも、ごはん屋さんよりギャラリーのほうが許可を得やすいかなと、ギャラリーカフェにしたんです。
「お寺を新しくしたい。それにはまず敷居を低くして人に集まってもらえるようにしなければ」と考えると、檀家さんとのつながりだけでもなく、観光寺院のような一過性の人の流れでもなく、幅広く人とのつながりを持てる装置を作りたいと思いました。また、美也子が学校を辞めて坊守として家にいなければいけなくなったときに、居場所があったほうがいいのではないかという思いもありました。
だから、ハード面を先行させて『おてらハウス』の建物を作ったんですね。3年間で約40もの展覧会やミニコンサートなどを開催して、その中にはこの「坊主めくり」にも登場されている杉若恵亮さんや中川学さんと取り組んだ「平成画僧展」など、うちならではと自負している企画もありました。でも、3年を過ぎた頃からちょっとしんどくなってきた一面もあって。
美也子:当初は、ここでの企画やレイアウトも含めて全部を二人でやっていたんですが、住職の方はお寺の法要や本山でのお仕事も増えてきて、そちらに重点が移りつつあります。でも、『おてらハウス』は単なるお店ではなくてお寺のなかの一部ですし、ここをどうするかを考えるのもお寺の仕事です。住職がいわゆるお坊さんの仕事が忙しくなっているなかで、どうしたら最初に思っていたかたちに持っていけるのかを、4年目にして今後のことを真剣に考えなければいけない時期を迎えているなと思います。
「紙芝居をする布教師さん」の説教ライブツアー
佐々木:ここ1~2年は、布教師としての仕事が増えています。他府県の教区を担当して10カ寺くらいに法話をして回っています。遠くはそういう北海道や九州などに行くこともあります。お説教はライブですね、同じ話をしても時と場所によって反応が全然違いますし。
また、お説教って話術というか職人芸みたいなところもあります。そこから講談や浪花節、落語が生まれてきたくらいですから。僕は難しい話ができませんし、話術もいまいちやし、中身もたいしたことないから、紙芝居を作ってるんですよ。美也子にも、一緒に色を塗ってもらったりして。
美也子:(笑)。
佐々木:「紙芝居をする布教師さん」というイメージは徐々に定着しつつあるようです。たとえば、『観無量寿経』の王舎城物語を現代風にアレンジしたり。王舎城物語って家庭問題なので「イダイケ」を「井田家」という社長一家の話にしてね(笑)。みなさん『観無量寿経』のお話はご存知ですが、紙芝居で見られるというのは無いかなと思って用意したんですけど、みなさんポカンとしてはることもあって、アハハハハ(笑)。
仏光寺の800年の歴史をクイズ形式で振り返る紙芝居もあります。全問正解される方はたいてい誰もおられないので「残念ですね。全問正解されたらすばらしい景品をご用意しておりましたのに」と言って笑いを取ります(笑)。難しいありがたい話をするより、どうしたら退屈せずに話を聴いてもらえるかと常に考えています。
みんなが退屈しそうやなと思ったら、いきなり地獄の話を始めるんですよ。そしたらみんなものすごいキューッと集中してくれはって(笑)。よく冗談で言うんですが「浄土の話は受けないけど、地獄の話は受ける」とね(笑)。怖いもの見たさでしょうかね?
坊守は住職への敷居を下げる存在
佐々木:『おてらハウス』では、私よりも支配人(美也子さん)の方がいろいろな相談事を受けることが多いんですよ。
美也子:「お寺の奥さんだから聞いてみよう」と思われるのか、みなさんいろんな思いを吐き出していかれますね(笑)。住職というのは、敷居が高すぎて近づきがたいところがあるようで。老人介護のことや福祉関係のこと、仕事に疲れた、精神的にしんどいとか、話される内容はいろいろ。アドバイスをすることもありますが、たいていは「そうやねえ」と話を聴くだけです。
昔ながらのイメージでは、お寺は地域ごとにポツポツとあって、地域の人に「ちょっとご縁さんに話を聞いてもらおうか」と言われて、夫婦喧嘩の仲裁をしたり、お金を貸してほしいと言われたりと地域の人の相談に乗っていたんだと思います。そういう意味では、『おてらハウス』で私がみなさんの話を聴くというのも同じですよね。
ただ、現実としては、お寺のお嫁さんとしての共通の問題は「お寺の運営にどう関わるか」ということではなく、やはり次の代を生み育てるということが一つの大きな役割であることは事実です。時代が変わっても、跡継ぎがないままに住職が先に死んだら、居住権すらないという世襲の問題は根強く残っていますよね。私自身が世襲の問題に悩んで家を出たにもかかわらず、またそれに悩まなければいけないというのは、やっぱり逃れられないなと思います。
今、再びお寺のあり方を問い直す
美也子:お寺を管理・運営していくには、お寺の家族構成や考え方、またそれぞれの時期に合わせたやり方があると思います。私は住職の妻として日常生活も共にしながらお寺の管理も一緒にやっているので、住職のサポートだけでなく自分自身もこのお寺で位置づけを持っていかないと意味がないのではないかと考えています。
でも、身の回りの世話だけしてくれたらいいという住職もおられるでしょうし、それはもう関係によりますよね。奥さんが住職でだんなさんがサラリーマンでというお寺もありますし、お寺のかたちはそこにいる人たちが作るものですよね。
私個人としては、残りの人生をここで過ごすなら草引きだけでは困りますし、自分も社会とつながりを持ち、一人の人間としてお寺の中で役割を持って生きたいです。お坊さんではないけれど、教団の教えも勉強して住職とは違った角度でお話ができたらいいと思います。まだ、その位置づけには迷いもあるんですけども(笑)。
佐々木:ここ4~5年の間にいろんなことを仕掛けてきて、ちょっと疲れてきたところもあるんですね。それで、ふと我に返ったときに「お寺ってなんだろう? 自分はお寺で何がしたいんだろう?」と思うこともあります。
最近「寺よ、変われ(高橋卓志 著)」という本を読んだんです。納得できる主張も多くある一方で、ふと「お坊さんってそこまでがんばらないといけないのかな?」と思ってしまいました。ここまでしなければいけないのがお坊さんだと言われると、正直言ってしんどいなぁと。憧れのお坊さんは、禅宗の方ですけども良寛さんなんです。囚われないし飄々としていて、40歳も年下の女性に慕われて......。
美也子:そこやね(笑)。
佐々木:まぁね(笑)。そのことも含めて世間がどう見るかとかこだわりがないですよね。たぶん、良寛さんのように何もかも捨てて、モノを持たずに庵で暮らしながらやさしい言葉で法を説くという境遇が理想なのに、今の自分がいろんなものを持ちすぎて、関わりすぎているという矛盾があるのかもしれません。
今は、お寺やお坊さんのあり方について敢えて問い直している時期ですが、いずれまた一本の道が見えて、思い切って行けたらと思います。
坊主めくりアンケート
1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。
癒されるのはリチャード・クレイダーマン。カラオケでは演歌から浜田省吾まで。
2)好きな映画があれば教えてください。
「レオン」。好きなシーンは、「レオン」の最初の場面で、こわもてのギャング達を、アジトに忍び込んだレオンが、プロフェッショナルな手口で次々と倒していくところ。あとの、心優しく不器用なレオンとのギャップが面白い。しかも命を奪っていないし...。
ちなみに大善院のサイトでは、映画と仏教の融合?を目指したコーナー「シネマ青色青光」を作っていました(途中で挫折しましたが...)。→大善院サイト・住職の部屋
3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
中学・高校時代は、SF関係。フレドリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、星新一など。最近は京都を舞台にファンタジーな作品を書く森見登見彦などがお気に入り。
ちなみに、住職も昔ショートショートなどを書いていました。(上記・住職の部屋)
4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
小学校から京都の踏水会という古式泳法も教える水泳道場に通い、高校時代は水球部に所属していたので、立ち泳ぎが得意。
5)好きな料理・食べ物はなんですか?
野菜、魚系が好き。特にアゲとジャコと大根おろしがあれば、それだけで、ご飯のおかずに充分。その他、スーパーでかき揚げを見ると必ず買ってしまう。
6)趣味・特技があれば教えてください。
元々絵が好きで、最近はコンピューターを使って作品を創っています。現在の目標は、「現代版地獄絵」を描いて「おてらハウス」で展覧会をすること。(ちなみに作品の一部は上記・住職の部屋でも紹介しています。仏教には関係ありませんが。)
7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
花や野菜の名前を覚えること。
8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
ブラジル、イタリア、ブータン
9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
やはり漫画家かイラストレーター。「巨人の星」「あしたのジョー」より先に、アダムズやペイネや長新太の作品に出合っているので。
10)尊敬している人がいれば教えてください。
あこがれるのは良寛さん。立派だと思う人は大勢いる。
11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
高校時代/水球部、大学時代/アイスホッケー部、児童文学研究会
12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
学生時代に喫茶店のボーイや鉄筋屋の手伝いなど。
13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
「飲む・打つ・買う」の生活にあこがれること。
14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
完全にオフという日はないので、合間を見て映画に行ったり、美術館に通ったりしています。
15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
海辺の小屋に泊まり込んで、ミステリーを読んだり、流木を使った創作活動などしてみたい。
16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
最近あこがれている言葉は「柔軟心」(にゅうなんしん)。
17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
前世はアメリカ人(アメリカに行ったことはないけれど)。来世は南海の漁師(立ち泳ぎが得意なので)。
18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください
お坊さんはやはり正座をするべきでしょうか?
19)前のお坊さんからの質問です。「結婚されている方へ→それでも出家者と言える理由は?」「結婚されていない方へ→その意義は?」
浄土真宗では「出家者」という位置づけがされていないもので...ということを言い訳にしています。
プロフィール
佐々木正祥さん/ささき しょうしょう
1953年11月12日生。龍谷大学文学部仏教学科卒業。大善院第24世住職。養護学校(特別支援学校)付属寄宿舎の指導員を13年、盲学校で10年勤めた後、2001年に退職。2003年『第一回佛光寺花まつりコンサート』を企画・開催。2005年、境内に『おてらハウス』をオープン。社会福祉法人『アイアイハウス』理事長。
佐々木美也子さん/ささき みやこ
1955年4月8日生。日本福祉大学卒業。浄土真宗大谷派の寺院の長女に生まれる。就職先の養護学校で正祥さんに出会い結婚。女子高に転職し、社会科教師として23年間教壇に立つ。退職後は、正祥さんと二人三脚で新しいお寺のあり方に取り組む。『おてらハウス』支配人、社会福祉法人『アイアイハウス』後援会事務局長。
住職と坊守の日常を綴るブログ『おてらハウス日記』はこちら。
大善院
建武年中(1334~5年)、佛光寺第七代 了源上人の長弟・武田明信によって開かれた。佛光寺六院家のうちの由緒ある一ヵ寺として、江戸時代には末寺45ヵ寺を持つ中本山であった。現在は、境内の一部にギャラリーカフェ『おてらハウス』を併設、佛光寺山内に新たなムーブメントを呼ぶ塔頭寺院である。
京都市下京区新開町397-9
Tel/Fax: 075-351-4883
通常非公開(『おてらハウス』の営業時間は下記参照)
大善院ホームページ
阪急烏丸駅・京都市営地下鉄四条駅 下車徒歩7分

境内に作られたギャラリー&カフェ。窓から庭の木々を見える吹き抜けの空間が心地よく、街なかとは思えないゆったりした時間が流れる。ギャラリーでは、アーティストたちの作品展示のほか、仏教や福祉に関連する展示・ワークショップ、講演会なども行われている。カフェでは、美也子さんがコーヒー・紅茶(4000円)やカプチーノ(430円)を出してくれる。ギャラリー利用は水~金 1万円/日、土日祝 1万5000円/日、1日から使用可。イベント情報などについては、ホームページにてご確認ください。
11:00AM~18:00PM 月曜定休(8月休業、不定休あり)
Tel: 075-351-4883
http://www.oterahouse.com/