2010年3月11日
彌光庵の壁に貼られた大谷派「不戦決議」の前で
彌光庵の壁に貼られた大谷派「不戦決議」の前で
京都の町のど真ん中、四条寺町を南へ一筋下ってすぐ西側ある小さな路地が、夜になるとほのかな灯りとともに口を開く。まるで、暗闇のなかを手探りであるく「胎道めぐり」のような暗い路地をくぐり抜けると、ごく普通の一軒家のような建物の窓には猫が顔を見せる。初めて訪れる人は、たいていおっかなびっくりでドアを開けるのに、帰るときは自分の家から出かけるような気持ちで路地をぬけだしていく。「彌光庵」は、そんなちょっと不思議なマジックのある場所です。あまたある京都のお寺の中でも、明らかに異色な「お寺」の庵主、釈彌光さんのインタビューです。

精進料理とお茶とお酒のある「お寺」

彌光庵の入り口は細い路地
彌光庵の入り口は細い路地

彌光庵は、精進料理を通して仏教の基本的な考えのひとつである「不殺生」を体現する「お店」であり、一般の方と同じ目線で仏法を語る「お寺」でもあります。「不殺生」は、人間だけでなく動物についても「命を殺してはいけないよ」という教え。お野菜だけのごはんを食べてもらって「おいしいなあ」と思うだけでもいいですし、「お野菜だけでもおいしいのになぜお肉を食べるのか」と考えていくうちに、命を大切にすることについて考えてもらえるならそれもいいかな、と思います。でも、こちらから押しつけることはしませんね。

はじめは、「お寺」というコンセプトに合わせて、メニューには値段をつけないで全部「お布施」にしようと思っていました。「お布施」は自由な志でされること。お金のない若い子がごはんを食べたときには「今日は300円しかないんです」というのもアリのお店にしたかったんです。でも、お客さんたちに「いくらでもいいと言われるとかえって困る」と言われますし、お坊さんたちは「見栄を張って高く払いすぎてしまいそう」なんて言うので、ふつうに値段をつけることになりました。

お客さんは、外国人のベジタリアンの方が多いかな。学生からおじいちゃん、おばあちゃんまで、年齢層は幅広いです。お坊さんやご門徒さんも多いですね。地方のお寺に布教使として呼ばれてお話した後に、本山に来るついでに寄ってくださったり。また、私は非戦を中心としたさまざまな市民運動に参加していますので、その関係の人たちが集まることもあります。


市民運動のなかで出会った仏教

私が仏教に出会ったのは東京にいた20代の頃。成田空港建設反対のための三里塚闘争や死刑制度反対運動、原発反対運動などのまっただなかにいたときでした。そういった運動をする市民団体は人の入れ替わりが激しいのですが、お坊さんや牧師さんはずっと継続して取り組まれているんですね。学生たちとは違い、彼らは「命に関わること」だと思って運動しているので、基礎がしっかりしているなと感じました。冗談ひとつにしても、仏教の専門用語で気の利いたことを言って笑っているのを見ると何だか悔しくて。仏教のことをどんどん知りたくなってしまったんです(笑)。

29歳のとき、お釈迦さんや親鸞がどんなことを言っているのかをちゃんと勉強しようと、京都の大谷専修学院に入りました。市民運動で出会うお坊さんには真宗大谷派の方が多かったですし、Tシャツとジーパンでどこにでも行くみたいな雰囲気の方ばかり。大谷派がいちばん私の性格にも合うと思ったんでしょうね。

大谷派のお坊さんは、社会に対してどう行動するかについてお話する方が多いんじゃないかなと思います。今の世の中の大変さを通り越して「お浄土ではこうだ」と説かれてもしょうがないでしょ? 仕事がないとか、景気が悪いとか、今であれば労働者の派遣切りの問題に対して、いったい私たちは何ができるのかというところからでないと、せっかくの教えも伝わらないと思うんです。


女のお坊さんなんかいらない!?



お袈裟姿でりりしい彌光さん

お袈裟姿がりりしい彌光さん

専修学院で1年間勉強して僧侶の資格を得た後、先生たちに「私はお寺の役僧になりたいのですが、いいところがあれば紹介してください」と相談したんです。すると「女のお坊さんなんて誰もありがたがらないし、そんなものは必要ない」って言うんですよ。「男の子ならいくらでも紹介するけど、女のお坊さんの就職なんかない」と。「えー?」と思っていたら、友人のお寺でお父さんが亡くなって大変だというので、お手伝いに行くことになりました。

でも、月参りでお檀家さんの家に行くと「ああ、女のお坊さんが来てくれるなんてありがたいわぁ」って言われるんです。平日の昼間、家にいるのはお嫁さんかおばあさんが1人でしょう? やっぱり、男のごついお坊さんが家に入ってくると怖いっておっしゃるんですよ。そして、法事のしきたりやお仏壇の決まりについて「おじゅっさん(ご住職)には聞けないから、いろいろ聞いてもいい?」と質問されたりしてね。「先生たちの言うことと違うやん!」と思いましたね(笑)。

私の父が亡くなったときには、友達にお願いして女性僧侶3人でお葬式をしたんです。そしたら、近所のおじさんたちが感激しちゃってね。「女のお坊さんのお葬式ってええなぁ。俺もあれでやってほしいわ」って(笑)。奥さんが「あんた、バカね。あんたのお葬式ではあんたは死んでるんだからいないのよ」とツッコむと、「そうか。そしたら生前葬でもするかなぁ」なんて言ってました。女のお坊さんというのは、潜在的にはけっこう求められているんじゃないかなと思いますね。


「坊主バー」から「彌光庵」へ

彌光庵の人気者
彌光庵の人気者、やさしくミャァと鳴きます

彌光庵をオープンする少し前に、当時心斎橋にあった『坊主バー』で日替わりホストとして月に1~2回出勤していた時期がありました。でも、『坊主バー』ではフードは乾きものだけ。お酒が飲めない人や、学生さん、おじいちゃん、おばあちゃんにも来れるように、精進料理のごはんを出す『坊主バー』ができたらいいなと思っていたら、交通事故に遭ったんですよ。幸い、打撲とムチ打ちだけですみましたが、正座ができなくてリハビリに通っているときに、突然「いい物件があるんですけど」という話が降ってわいたんです。

そこは、食堂だったところに車が突っ込んでぐしゃぐしゃになってしまい、その後に建てたビルに入った会社は倒産したあげくにまた車が突っ込んだという物件。誰も借りたがらなかったんです。内見に行くとまだめちゃめちゃな状態で、入口には「家内安全」と「商売繁盛」のお札がコロッと倒れていました(笑)。大家さんには「いやぁ、お寺さんが入ってくれるなら安心ですわ」なんて言われてね。

私が事故に遭ったのが12月、物件のお話がきたのが3月。「4月8日の花まつりにオープンを間に合わせよう」と、大急ぎで突貫工事をやってオープンにこぎつけました。初日は、メニューもない、何も間に合っていない状態でしたね。そこに5年間いて、今の場所に移ってからは10年、今年の花まつりでもう15周年を迎えます。(後編へ続く

プロフィール

釈 彌光さん/しゃく みこう 1960年3月3日仙台生まれ。大学入学とともに上京。さまざまな市民運動に参加したのち、89年に大谷専修学院へ。95年、彌光庵を川端二条にオープン。00年より、「もっとたくさんの人が集まれる場所が欲しくて」寺町四条へ移転。毎年2月に「非戦平和音楽法要」を行うほか、「反戦・反貧困・反差別共同行動」などの市民運動にも参加し、非戦のメッセージを発し続ける。

彌光庵

map_mikoan.jpg600-8032 京都市下京区寺町通四条下ル中之町570  TEL/FAX 075-361-2200 http://mikoan.com/

精進料理とお茶とお酒を楽しめる店。無農薬の安全な野菜を使い、そのときそのときあるものを工夫しておいしく料理する。学生のお財布にもやさしい価格設定で、ノンアルコールのベジタリアンから酒好きまで受け入れる幅広くメニューを構成。諸行無常カレー(800円)や精進の定食・みやこごぜん(1000円)などのごはんものから、からだにやさしいお茶各種、日本酒・ビール・洋酒まで揃う。おっとりした3匹の看板猫たちも人気者だ。

彌光庵15周年記念PARTY!

ジャズピアニストの山下洋輔さんを中心に、林栄一さん(Sax)、小山彰太さん(Ds)他、豪華なゲストミュージシャンを迎えて行われる、彌光庵15周年記念ライブ。音楽と彌光さんのつながり、そして音楽と仏教のつながりを感じることができそう。お釈迦さまの誕生日、花まつりの日に京都の老舗ジャズライブハウス「RAG」にて開催される。

日時:4月8日(木)18:00オープン、19:00 スタート
場所:LIVE SPOT RAG (三条木屋町)
料金:前売り3500円、当日4000円(ぴあ、ローソンチケットなどで発売中)

歎異抄読書会

彌光庵で定期的に行われている『歎異抄』の読書会。 次回の開催は、3月24日(水)19時より予定。詳しくは彌光庵までお問い合わせください。


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「このお寺にはどんなお坊さんがいるんだろう?」と思ったこと、ありませんか? お坊さんに会うことは、お寺と縁を結ぶこと。お寺のなかでお坊さんが考えていることをお伝えすることで、もう「観光」では物足りない、お寺や仏教をもっと知りたくなったあなたに、お寺との縁の結び方をご提案します(→はじめに)。
杉本恭子
大阪生まれ。水瓶座、B型。東京で5年間を過ごし「東京は山が見えない」と学生時代を過ごした盆地・京都に戻る。大学寮で「寮を開く」という名目でカフェ・イベントを開催していた経験からお寺の動きに興味を持つ。現在は、京都をテーマにした雑誌などで取材・執筆を行うライター。ご連絡・お仕事依頼はこちらまで。 (プロフィール写真撮影:近藤宏樹)
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