
- 白川密成さんと彼岸僧・松下弓月さんの貴重な2ショット
『ボクは坊さん。』の著者・白川密成さんインタビュー「仏教を"歌う"お坊さん」最終回です。『ボクは坊さん。』の制作に関するお話、ミッセイさんがお坊さんとして「どんなふうに仏教をやりたいか」というお話を伺った後、最後にミッセイさんが今考えている「ミッセイさんにしかできないこと」についてお話いただきました。書店員の経験や、書籍制作を通して「活字離れといわれる出版界」と「檀家離れといわれる仏教界」を比較しながら、これから何ができるかを考えるミッセイさんならではの語り口がとても興味深かったです。やってみたいことは数あれど、自分にできることはそう多くない。本当にそうだな、と思います。また、お坊さん一人ひとりから「このお坊さんにしかできないこと」を聴くことが、『坊主めくり』を続けるうえで一番面白いところなんですよね(
第一回、
第二回)。
声のいいシンガーみたいなお坊さん
――ミッセイさんだからできること、ですか?

- 栄福寺本堂の前にて
自分のことなので表現しにくいですけど、僕は仏教という"場所"で作詞も作曲もできないけれど、声のいいシンガーみたいな存在ならなれるのかも、と思うことがあります。僕が書いていることは、僕のオリジナルな考えではなくて、お釈迦さまやお大師さまからいただいた思想ですよね。でも、難しい学術的な用語ではない僕の言葉を通すと「気持ちいい」と言う人がいる、みたいな。その「声」が僕にとっての文章なのかもしれないです。あんなふうがいい、こんなふうになりたいというのは、いくらでも思うけれども、なれるものってほんのちょっとしかなくて。少ない選択肢のなかからこれだったらできるかも、というものなのですが。
――たしかに、何ができるかなって考えるのは楽しいですよね。
はい、楽しいです。今、お遍路さんのツアーグッズのようなものを、仏教思想を交えて作ったらどうかなと考えているんです。Tシャツやトートバッグを作ってみたのですが、ブランディングを手がけるアートディレクターの方に入っていただけるといいのかなと思うこともあります。でも、仏教のブランディングをするのはお坊さんの仕事のような気がするから、そこを任せるのは考え中なのですが......。
――仏教のブランディングという言葉はちょっと新鮮かも。
たしかに、ちょっと柔らかい言い方すぎるかも(笑)。すぐれたアートディレクターの人たちは、ただキレイなモノを作るだけじゃなくて、間口を広げてきちんと届くものを作ろうとされますよね。仏教にもそういうスキルは必要なのかもしれません。仏教はある意味で、今とても「小さなもの」だけど、みんなでもうちょっと身近なものにしたいですよね。考えてみると、本もすごく「小さなもの」なんですよね。少なくとも巨大な産業ではない。ただ、本や仏教に関わっている人は、それが今「小さなもの」であることを忘れそうになっちゃうし、大きくはないけれども面白い、好き、何とかしたいという視点を持っておくべきだと思います。もちろん、一人ひとりの心のなかでは、「仏教」も「本」もすこぶる「大きなもの」になり得ることを前提にした話なのですが......。
これからミッセイさんがやりたいこと
――檀家離れと言われるお寺と、活字離れをなげく本の世界、ですよね。

- 栄福寺オリジナルグッズ
出版が抱えている問題は、宗教が抱える問題に重なり合ってきますよね。本が売れなくなる、人口は減っていく。「じゃあどうする?」となったときに、やはり方法としては「読みたくなる本を作る」「本でしかできないことをやる」、「聴きたくなる宗教を語る」「宗教だから語れることを語る」ということなのかなぁと。
どんなにいい本を作っていても、人が本を読まなくなったらもしかしたらダメかもしれない。でも、きっと単純には説明できないけど「本が好き!」って気持ちがあるからやっていられるんじゃないかと思うんです。この人だったら裏切られてもいいと思う恋みたいなもので、自分が好きになったんだから恨みっこなしだよ、みたいな。そういう覚悟が僕たちにもあれば、プレッシャーを感じすぎずに仏教をやって、ダメだったら「そういう人生だったんだよね」と。
――かっこいい!
なかなかそうはできないけど(笑)。どこかに仏教が好きだという思いがあれば、ずいぶん気が楽になるんじゃないかなと思います。
――ミッセイさんが、これからやろうとしてことを教えてください。
本や文章はどこにいても書けるわけですから、お寺という場所を預かっているからこそできることも考えたいですね。今計画しているのは、増設中の庫裡を『演仏堂』と名付けて、一階部分にお寺や仏教を考えたり、仏教を「やってみる」編集部のような場所を作ることなんです。
――『演仏堂』の完成はいつごろですか?
2011年3月頃を予定しています。2007年、2009年にグッドデザイン賞を受賞した建築家の白川在さんが設計して、在さんの知り合いで東京スカイツリーの照明を手がけた照明デザイナーの戸恒浩人さんに全体的な照明デザインをお願いしています。地元の人がデートに来たくなるような場所にもなればいいかもしれないですね(笑)。
好みで言えば、僕自身は宮大工さんが作る伝統的な建築も好きなんです。でも、あえて新しいデザインの建築を作ることで、僕が今取り組んでいる「仏教を今の人の言葉でカジュアルに考えて行こう」という問題意識の"旗"を立てておきたいんです。
――「仏教をやってみる」ってどんなことでしょうか。
イメージとしては、やはりワークショップ的なものが近いのかな。納経所を今の3倍くらいに拡大して、お参りに来る人が仏教の内容の部分を何か持って帰れるものを作りたいです。また、どんなカタチであれ、言葉はずっと書いていきたいですね。7月からミシマ社のウェブマガジン『ミシマガジン』で『となりの坊さん』という連載がスタートしますが、今度は仏教の中身、内容を語るものを書いていくことになると思います。
――楽しみにしています。ありがとうございました!
坊主めくりアンケート
1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。
中村一義さん、くるり、原田郁子さん、コーネリアス、レイ・ハラカミさんなどの音楽が好きです。
2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。
もう観れないかもしれませんが、「ダンサーインザダーク」を映画館で観た時には、暗闇の中で踊っているのは、目の見える僕たち自身なのかもしれないな、と思いました。あと、たくさんの子供と(これも劇場で)観た「崖の上のポニョ」に子供たちが本気で喜んでいたのが、とても印象的でした。
3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
中沢新一著『カイエ・ソバージュ』
(新装本の鈴木成一さんのブックデザインも好きです!)
4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
松井秀喜選手のプレーを観るのが好きです。
散歩が結構好きです。
5)好きな料理・食べ物はなんですか?
新鮮な魚介類と野菜、キノコを使ったシンプルな料理。
6)趣味・特技があれば教えてください。
コーヒーショップで馬鹿話をすること。
7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
いばっている人。極端な精神主義。
8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
青森、鹿児島、沖縄、北海道。
タイ、スペイン。
9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
お坊さんになりたかったけれど、「魚屋さんになりたい」という絵がコンクールで賞をもらい新聞に載ったことがあります...。
10)尊敬している人がいれば教えてください。
けっこうたくさんの人を尊敬しています。
11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
軟式テニスをしていました。
12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
大手パンメーカーの工場で、パンを焼くバイト。
「コンパニオン」の時給が良かったので面接に友達と二人で行ったら、「男だったの!」と言われました(大学生の頃)。
13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
とても教えられません。
14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
美術館やお寺、自然の綺麗な場所に行くのが好きです。
15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
おしいものを食べに行きたい。
16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
「ゆるさをゆるす」
17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
以前、韓国人の尼僧さんから、「前世は中国人のお坊さんだったね」と突然、言われたことがあります(真相究明中)。
18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)
「日本のお坊さんだからできること、取り組める仕事」(いい意味で)
があるとしましたら、それはどのようなものだと考えられますか?
19)前のお坊さんからの質問です。「坊主と先生という呼び方に抵抗ありませんか?私は「和尚さん」と呼ばれるのが好きです。貴師はいかがでしょうか?」
僕の住んでいる地方では、親しみを込めて"おっさん"と僧侶のことを呼びます。
呼び方は基本的に先方に任せるようにしていますが「ミッセイさん」と呼ばれると、一番ホッとしますし、そう呼んでくださる方が多いようです。
プロフィール
白川密成/しらかわ みっせい
1977年愛媛県生まれ。栄福寺住職。高校を卒業後、高野山大学密教学科に入学。大学卒業後、地元の書店で社員として働くが、2001年、先代住職の遷化をうけて、24歳で四国八十八ヶ所霊場第五十七番札所、栄福寺の住職に就任する。同年、糸井重里編集長の人気サイト『ほぼ日刊イトイ新聞』において、「坊さん――57 番札所24歳住職7転8起の日々――」の連載を開始し2008年まで231回の文章を寄稿。2009年『ボクは坊さん。』(ミシマ社)を発表。現在(2010年7月)までに7刷を重ね、各界に静かなブームを起こしている。
高野山真言宗 府頭山 無量寿院 栄福寺
四国八十八ヶ所霊場の第五十七番札所。嵯峨天皇勅願寺と伝えられる。弘仁年間(810年~824年)に弘法大師が今治に立ち寄った際、海上の安穏を祈願して府頭山の山頂にて護摩法を修法すると、満願の日に海上から光あふれる阿弥陀如来が現れた。この阿弥陀如来を本尊として建立されたお堂をもって創建とする。さらに、貞観元年(859年)に行教上人が九州の宇佐八幡の分社を京都の男山に建立するため、瀬戸内海を航海中に暴風雨に遭って今治に漂着したときに、府頭山が男山に似ていることに驚き、山頂の阿弥陀如来を本地仏として八幡神を祀り神仏習合の八幡宮を建立。しかし、明治政府による神仏分離令により、お寺は山の中腹の現在地に移転したという。
〒794-0114 愛媛県今治市玉川町八幡甲200
白川密成さんの言葉に出会える場所
「坊さん」―57番札所24歳住職七転8起の日々―
http://www.1101.com/bose/index.html
24歳で突然住職になったミッセイさんが、『ほぼ日刊イトイ新聞』に「Light My Fire!」されてスタート。7年間で、231回もの長期連載になりました。『坊さん』は24歳から31歳のミッセイさんの言葉がライブ録音されているような印象。『ボクは坊さん。』を読んでから再び『坊さん』を読み返すと、「あの頃」のミッセイさんに会えるような気持ちになり、とても味わい深いです。
ボクは坊さん。(ミシマ社/2009年)
http://www.mishimasha.com>
『坊さん』とミシマ社との出会いによって生まれた、ミッセイさんのデビュー作。青春コメディのようであり、仏教エッセイのようでもあり、同じ時代に生きる等身大のお坊さんを感じることができます。『ほぼ日』連載にはなかった、お釈迦さまと弘法大師の言葉が挿入されているのもポイント。「お坊さんの日常は、こんな風に仏教に接続しているんだな」と思えたりします。個人的には、お坊さん初心者のみなさんにおススメです。
山ラジオ(ポッドキャスト)
http://www.eifukuji.jp/series/radio/
ほぼ月一回更新される、ミッセイさんのポッドキャスト番組。お坊さんの声って、お経で鍛えているせいかとても心地よいもの。それに、声で聴くミッセイさんの言葉もまた新鮮ですので、ぜひ試しに聴いてみてください。
となりの坊さん
http://www.mishimaga.com/tonari-bousan/
ミシマ社のウェブマガジン『ミシマガジン』でスタートした新連載。「仏法に触れたことで、ここはできたよ。できないことも、ずいぶん多いけれど」というスタンスで、できることから始めてみようとする"途中の仏教"を提案し、ウェブ上で行う仏教ワークショップを試みておられます。「仏教っていいかもしれないけど、どうやるの?」と思っている、「やってみたい派」のみなさん、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。