2009年11月12日
今城良瑞さん
今城さんの笑顔には、聞き手を包み込むような暖かさを感じます。

私は、今城良瑞さんのことを、今城さんの著書『ボクらの仏教 人生が楽になるヒント』を通じて知りました。読みやすい文章、わかりやすい話の進め方、行間からにじみでる大阪の人らしい大らかな笑いのセンス。そして「ちょっとでいいから仏教の教えの良さを知ってほしい」という思いが伝わってきました。こんな本を書かれるのはどんなお坊さんなんだろう? と、今城さんのブログを読んでみるとなんだか楽しそうな方で、ぜひいつか『坊主めくり』でお話を伺いたいと思っていました。前編では、なぜ今城さんがお坊さんになったのか、そして現在の活動を始められるまでのお話をご紹介します。

お坊さんに遊んでもらう子供時代

僕はお寺に生まれたわけではないんですよ。ただ、祖父が四天王寺の西門前でうどん屋をしていましたから、小さい頃はよく四天王寺の境内で遊んでいましたね。また、祖父の店にうどんを食べにくるお坊さんたちに遊んでもらっていましたので、子供の頃からお坊さんは身近な存在でしたよ。

四天王寺の五重塔
四天王寺の五重塔。Photo by t.shigesa

お坊さんになろうと思ったのは、大学進学を考えていたときでしたね。僕らが高校生の頃はバブル全盛期で、大人は毎日バカ騒ぎをしていましたし「世に出れば誰でも稼げるんやろ?」と思っていました。だから、社会に出てから役に立つわけでもない学問を学ぶくらいなら、仏教を学ぶほうが根本的に有効なものを学べるような気がしたんです。

高校生の時は、やんちゃしてましたよ(笑)。でも、どんなアホな高校生でもこのまま一生はいけないとわかりますし、体力的な強さが本当の強さではなく、もっとトータルな強さが必要やなと思っていました。お坊さんになれば、年齢を重ねていくごとにずーっと上がっていって、最後に頂点がくるような感じがして魅力的に思えたんです。

どっぷり仏教を学びに高野山へ

僕の実家は浄土真宗やったんですけど、なぜかお墓は高野山にあってね。高野山がどういう場所か知っていましたので、「どっぷり行くなら高野山しかない」と思いました。自分の性格を考えると、京都の大学へ行けば遊ぶだけで終わってしまうとわかっていたのでね(笑)。

大学の勉強はむっちゃ難しかったですよ。はじめのころは「何言ってるのかさっぱりわからへん」と思ってました(笑)。でも、やると決めたなら、お坊さんになるところまで全部やろうと思っていましたし、途中でやめたいと思うことはありませんでした。

高野山大学では、入学してすぐの5月に集団得度があるんです。そのとき、学生課で「師僧はどうする?」と言われまして。ふと、高校の先生にお坊さんがいたことを思い出して「先生、なんか師僧がいるねんて。ええかな?」と電話したんです。そしたら「ええよ」って軽く引き受けてくれまして(笑)。その方が、いま勤めている某本山の長老猊下です。

今考えるとすごいなぁと思いますけどね(笑)。僕は学生のノリで軽く言ってますし、先生も僕の中高生の姿をご存知ですから、こういう感じでいけたんやと思います。

「ちょっと和尚さん」と呼び止められて

修行を終えた後は、高野山にこもった5年間分を遊ぼうと思っていたんですよ。だから、師僧になっていただいた先生に「うちのお寺で働け」と言われたときも、「いやです、僕はプータローやります」って答えまして(笑)。でも、「あほか、お前!」って無理やりつれて来られて今に至っていますけどね。

このお寺は、ここは観光寺院じゃなくてベースが祈願・祈祷の庶民の寺で、とにかく人の出入りが多いんです。相談ごとなんて、仏事のことから個人的な悩みまで、毎日のように飛び込みでいっぱいあるんですよ。伽藍を歩いていただけで、お参りの人にいろいろ話しかけられて1時間経ってた、なんて普通にありますからね。

あるときなんて「和尚さん、給料いくらもろてんの?」と聞かれて、「はあ?」「20万円はもろてんの?」「はぁ、もろてるけどぉ」と話していたら、「実は、うちの子、引きこもっててな......」と。言いたかったのはそこやったんかとひっくり返りそうになりましたね(笑)。大阪のお寺やということもあるのでしょうが、このお寺を歩いている人は思ってることを何でも言うてきはるんですよ。

若いころよりも、歳を取るにしたがって呼び止められる回数が増えてきたように思います。あまり若い人よりも、ある程度歳を取ったお坊さんのほうが相談しやすいのかもしれませんね。

お坊さんの自行は利他とセットのはず

5年間プータローしようと思っていたのにお寺に勤めましたので、「よし、働きながらやったら10年間遊んでやる」と思ってたんです。でも、10年経つ前に遊びつくしてね(笑)。そろそろ本腰入れてお坊さんするぞとなると、僕らがやっているのはあくまで大乗仏教ですから、衆生側を見る時間は絶対に必要やし自行として利他をやらないといけないといけないと思いました。

お坊さんとしては、自行と利他はセットやし、利他という名の自行やと思います。もちろん、加行期間のように、まったくの自行をしなければいけない期間も必要です。でも、利他をするときがまったくゼロではいかんと思うんですよね。

何か現実に即した形で、自行としての利他をできないかと思い始めたときに、影響を受けたのは"夜回り先生"で有名な水谷修さんでした。あの人の言っていることを聞いているとね、全部仏教に置き換えられる気がするんですよ。お寺でいろんな人から相談されていたこともありましたし、僕はつらい思いをしている人を助けることをやろうと思いました。

祈願・祈祷の寺でご利益を求める人に接している僕が、こういう方向に向かうのはひとつの自然な流れやったと思います。ご利益を求めるというのは100%「欲」ですし、祈祷によってその「欲」の手伝いをするんです。でも、その「欲」を求めるに至るプロセスにある不安や不満を考えたときに、僕にできることはないかと探し始めたんですね。

たとえば「お金が入りますように」という願いがあるとして、「どうしてお金が必要なの?」と聞いてみると「DVを受けているから別れて自立したい」ということが根本にあったりします。こういう話を何度も聴いているうちに、祈りを奥深くまで学ぼうとする人もいるでしょうし、祈り以外にも何かできることはないかと考える人もいるでしょう。僕の場合は、たまたま後者だったんです。

何かストレスを与えられたときに、人ってそれぞれに反応の仕方があると思うんです。僕は学生の頃からやりたい放題にむちゃくちゃなことをするタイプやったけど、内側にこもってため込むタイプの人もいます。そのときの気持ちが僕にはわかるから、苦しみを生じさせているストレスを何とかしてあげたいんですよね。

NPO法人『HAPPY FORCE』でも相談をスタート

HAPPY FORCE
今城さんが理事をつとめるNPO『HAPPY FORCE』

そしたら、ちょうど2003年に高野山真言宗主催で「心の相談員養成講習会」があることを偶然知って。心理カウンセリングを中心に、さまざまな援助のしかたを学ばせてもらいました。そのときに、スーパーバイザーをしていたある大学の心理学部の教授がひきこもりを専門にされていて、NPO法人を作って取り組みたいとおっしゃっていたんです。2005年にその先生が理事長になって不登校や引きこもりを対象にサポートする『HAPPY FORCE』を設立することになったので、僕も理事として参加しました。

僕にしてみたら、まずは何からでもとっかかりをつけてやっていこうと模索しながらのスタートでした。当初は理事長の指導のもと『HAPPY FORCE』でひきこもりや不登校をしている人の自宅を訪問してカウンセリングをしたり、講演会などの企画をしていたんです。2007年に、初代理事長は大学の仕事が忙しくなって退任されたので、今は僕が理事長を引き継いでいます。

『HAPPY FORCE』の活動を続けるなかで、不登校、引きこもりだけでなく、救いを求める声に対応していくようになり、今は対象を限定せずに「助けてほしい」と言われれば対応するようになっています。お寺で相談を受けると、お寺でできることできないことがありますので、僕もそれに制限を受ける部分があります。でも、NPO法人としての活動であれば自由な状態でやりたいことができるんですね。

プロフィール

今城良瑞さん/いましろりょうずい

1971年3月26日、大阪生まれ。1989年、高野山大学仏教学部密教学科に入学、同年高野山真言宗総本山 金剛峯寺で得度。1993年、高野山専修学院に入学して一年間の修行生活を送り加行。卒業後は大阪の某本山に勤務する。2003年、高野山真言宗主催『心の相談員養成講習会』に参加、心理カウンセリングを中心にさまざまな援助のしかたを学ぶ。2005年、NPO法人『HAPPY FORCE』を設立、理事に就任。2008年からは理事長を務める。『mixi』のコミュニティ『言えない心の傷』『ネットからリアルへ』の管理人として、日々さまざまな思いに向き合いレスコメントをつけている。2008年より保護司も務める。

ボクらの仏教 毎日がラクになるヒント
お釈迦さまのこと、お大師さまのこと、仏教の考え方について、とてもていねいなやり方で、しかも面白く書かれた仏教入門です。当初は『17歳からの仏教入門』という仮タイトルだったというだけあって、高校生でも充分に読める内容になっていますので、今まで仏教書を手にとってくじけた経験のある大人の方にもおすすめしたいと思います。読み進めていくと、「少し考え方や行動を変えて、苦しい気持ちをやわらげてほしい」という今城さんのあったかい思いが行間から伝わってきます。

今城さんの活動紹介

NPO法人『HAPPY FORCE
2005年設立。当初は「不登校」「引きこもり」を対象としたサポート・カウンセリング活動を中心としていたが、現在はお坊さんである今城さんを中心にサポート対象を広げている。mixiコミュニティの運営、講演会・イベント等の開催、救いを求める声に応じる相談活動などを行っている。

mixiコミュニティ『言えない心の傷』
虐待、レイプ、リストカット、いじめ、自殺未遂、鬱、PTSD......さまざまな理由で苦しみを抱えた人たちが、ふだんは言いづらくて言えないことを吐き出す場として立ち上げられたコミュニティ。約2万2000人の参加者から、"言えない心の傷"について吐き出される思いが綴られ、その一つひとつに今城さんはレスをつけておられます。(コミュニティの性質上、URLのリンクはしておりません。興味のある方は、mixiにログイン後「コミュニティ検索」で探してみてください。)

mixiコミュニティ『ネットからリアルへ』
『言えない心の傷』の参加者を主な対象に、「モニターだけ見ている生活から現実に連れ出してあげたい」と、今城さんが立ち上げたコミュニティ。『HAPPY FORCE』の主催で、食事会、講演・ワークショップ、お寺参拝、ハイキング......など、さまざまなイベントを開催し、直接顔を合わせて話す場を作ることでリアルに繋がるきっかけづくりをされています。

イベント予定『第一回楽しく生きるセミナー』
同じことをしていても「苦しい」「つらい」と感じる人もいれば、「楽しい」「うれしい」と感じる人もいます。どうせ生きていくなら「楽しく」生きていかないともったいない----では、どうすれば「楽しく」人生を歩むことができるのか? その問いに答えてくれる人はさまざまな分野におられますが、一度にたくさん学ぶのは難しいです。だから、少しずつ一緒に学びながら、「オモロい」と感じられる人生を共に歩んでみませんか?

楽しく生きるセミナー「生き方としてのソリューション・フォーカス入門」 橋本文隆 先生
特別講演「言えない心の傷」 のりを 先生

日時:2009年12月19日(土)10:00開会(9:30受付開始)
場所:太融寺 会館2階 (大阪市北区太融寺町3-7)
アクセス:JR大阪駅、阪急・阪神・地下鉄梅田駅から東へ(扇町通)300m右側
受講料:2000円
定員:100名

詳しくはイベント告知をご覧ください。

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「このお寺にはどんなお坊さんがいるんだろう?」と思ったこと、ありませんか? お坊さんに会うことは、お寺と縁を結ぶこと。お寺のなかでお坊さんが考えていることをお伝えすることで、もう「観光」では物足りない、お寺や仏教をもっと知りたくなったあなたに、お寺との縁の結び方をご提案します(→はじめに)。
杉本恭子
大阪生まれ。水瓶座、B型。東京で5年間を過ごし「東京は山が見えない」と学生時代を過ごした盆地・京都に戻る。大学寮で「寮を開く」という名目でカフェ・イベントを開催していた経験からお寺の動きに興味を持つ。現在は、京都をテーマにした雑誌などで取材・執筆を行うライター。ご連絡・お仕事依頼はこちらまで。 (プロフィール写真撮影:近藤宏樹)
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