檀家寺がやるべき事(3/3)

檀家寺がやるべき事(3/3)

さて、いよいよ今回は僕が今、檀家寺のお坊さんとしてやるべきことはなんなのか、その核心に迫っていきたいと思います。


現在の日本では、社会構造や生活様式の変化に加え、お寺自身の情報発信不足もあり、お寺は本当に必要なのか?と議論されることが増えています。正解のないことなので論点も様々で、お寺も檀家さんもそれぞれの立場で決断し、行動していかなければならないと思います。


その中で、「お寺はもっと開かれなければならい」というメッセージを様々な場面で見聞きすることがあります。僕自身も彼岸寺でブログを始めてから、ツイッターやフェイスブックなどで、これからのお寺はやっぱり開かれるべきです!というコメントを頂くことがあります。(叱咤激励も含め、いろんなご意見を頂くことは本当に有難いです。)


これは一見すると確かにその通りだなと感じる言葉ですが、あれ?じゃ誰に開くの?もっと言うと開くって具体的にどういうこと?若者が来るようなイベントをする?(なんの必然性があるんだろう?)本堂や仏像を公開してして自由に参拝してもらう?(境内のお賽銭箱ですら苦労しているのにセキュリティはどうするの?)お寺の情報をインターネットで発信する?(これはたしかにやったほうがいいな)など疑問ばかりが湧いてきます。具体的にどうすればいいのかという行動イメージがなかなか湧かない言葉、それが「お寺は開かれなければならない」でした。


正式に浄土宗のお坊さんとなって半年余りが経ち、それまで見えていなかった現状も少しずつ自分事として理解できるようになり、ようやく「お寺を開く」ということが僕なりに解釈できるようになりました。


今回はその思考プロセスを、前回の記事でご紹介した顧客軸と事業軸による寺業検討を通じてお話ししていきたいと思います。檀家寺の事業戦略(寺業戦略)を以下に整理してみました。


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現在、僕はお檀家さんへの月参りを中心に、日々ご先祖さまを供養するための御回向やお葬式、中陰参りなどのお年忌、そして年に数回の法要をお勤めしています。その他に寺院墓地の運営も行っています(既存顧客に対する既存寺業)


東京などの都市部と比較するとまだ家という単位でお檀家さんとお寺のお付き合いがしっかりと残っていますが、これから先、お墓やお骨の供養を続けることができない方々に対して、お寺で永代にわたり供養をさせて頂く永代供養のニーズも考えなければと思っています。その他にも、実際に取り組むかどうかは別にして、自然葬やペット供養などお檀家さんの新しいニーズをどのように考えるかという課題もこれからでてきそうです。(既存顧客に対する新規事業)


また、ご先祖さまへの供養ではありませんが、お寺へ足を運んでもらうきっかけづくりとして、お説教の会や落語会の開催、仏教や浄土宗に関する学びの場として寺子屋の開催も意味がある活動になるかもしれません。(既存顧客に対する新規事業)

そして、状況を見ているとこの先何十年も、一定数のお檀家さんが今まで通りご先祖さまへの供養を求められるかというと、なかなか厳しい見通しであることは間違いありません。お檀家さんの数を増やす=浄土宗の教えを布教する、という観点からすると今後はお檀家さんではない方々に対して、布教活動をしていく事が必要だとも感じます。(新規顧客に対する既存事業)


さらには、もっと広く無宗派層(宗派にとらわれず供養を希望される方)に対しての供養や、供養ではなくお寺への拝観を通じて仏教に触れていただく機会を作る意味で、お寺の仏像や仏画の公開も考えられます。(新規顧客に対する新規事業)

同様にお寺の本堂というスペースを開放して、今までお寺に足を運ぶことになかった方に向けたイベントを開催するということも、新しい顧客層に対して、今までやっていなかった新しい事業を行うことができます。


このように、檀家寺という形態のお寺でも、現在自坊でやっていること/自坊ではやっていないが近所のお寺でやっていること/近所のお寺でもやっていないが話題のお寺でやっていることなどを改めて整理してみると、たくさんのことができそうな気がします。

でも、なんだか違和感を感じませんか?これらのなかで本当に注力していくべきなのはどの領域なのでしょうか。


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この記事を書きながらも檀家寺としてやるべきことについて様々な葛藤がありました。それは主に僕の現場での経験不足に起因しますが、そんな時に決してブレてはいけないこと、それは僕のお寺がお檀家さんに支えられている檀家寺であるということです。


僕自身がまだお坊さんとしてできることが少ないため、今の段階で新規事業を実践していくということは難しいでしょう。そういった意味で何をするべきかについては既存事業に注力していく=まずは自分自身がお坊さんとして出来ることを増やしていく(修行させていただく)、ということになります。


つまり、檀家寺は既存顧客であるお檀家さんにもっと開かれなければならないということです。お寺の運営を支えていただいいているお檀家さんにとって何が大切か、何が必要か、という観点があればやるべき事は自ずと見えてくる。だから、とても当たり前の結論になりますが、既存顧客に既存事業を提供していくこと(1の領域)が檀家寺として今僕が取り組んでいくべき領域です。


では、新規顧客へのアプローチはどうしていくのか?僕のお寺にとっての新規顧客とは、現在既存顧客であるおじいちゃんやおばあちゃんの次の世代にあたる方々だと思っています。すごく当たり前のことを言っているようですが、お寺にとっては世代が変わっても、お檀家さんとの関係を継続していくことがすなわち新規顧客を獲得していくということになります。


今までは当たり前のように上の世代から下の世代へ受け継がれてきた仏教の概念が、なかなか引き継がれなくなってきた今、お寺は先祖供養の後を継ぐお檀家さん(後継者)を新規顧客として捉え、その方たちに向けた新たな事業戦略を考える必要があると思います。だから、なにも話題になっているからといって、思想的根拠のない新しい形の供養を始めること(2の領域)や、新規顧客獲得のために若者を呼びこもう!というような必然性のない手段(3の領域)を取る必要はない。


事業を展開していく上で大切な事に「やらないことを決める」ということがあります。


今回このように整理をすることにより、自分が置かれた状況(まだお坊さんになって半年あまり、出来ることが限られている事や、現状一人で法務を切り盛りしなければならないという体制など)を踏まえて「何をやらないか」が明確になり、とても当たり前でシンプルな寺業戦略として腹に落ちたのでした。


もちろん自分自身が成長し、新しい視点を獲得することで見直しが必要になると思います。僕の現状認識が甘く、もっと厳しい現実がお檀家さんと向き合っていく中で待っているかもしれません。そんな可能性も考慮しつつ、これからの10年間は徹底的にこの領域で、お檀家さんに開かれたお寺になるための取り組みをやっていこうと決意しました。


さて、これからITビジネスマンの寺業計画書では、この領域で僕がどのようにお坊さんとしての価値を産み出していくのかHOWの検討と実践に入っていきたいと思います。




松島靖朗 (まつしま せいろう)
>>プロフィールを読む 浄土宗法性山専求院安養寺副住職。1975年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、9年間のITビジネスマン生活を経て奈良県にある実家のお寺に戻り浄土宗僧侶として修行の日々を送る。旅行・登山・サーフィン・温泉・美味しい物が好きで毎朝読経のあとの日経新聞が欠かせません。